三国大洋のスクラップブック

イノベーションは生産ラインで--アップル新規参入で考える自動車業界の難しさ - (page 2)

三国大洋

2015-03-03 07:00

 だが、それではAppleにとって「ホビー(遊び)」にしかならない、というのがDediuの見方だ。たとえば、2000万円の自動車を1年に3万台=30万台の10%を販売できれば、それだけでざっと6000億円=50億ドルにはなるが、700ドル近くもするiPhoneをたった3カ月で7450万台も販売してしまった=それだけで500億ドル以上にもなる、今のAppleには、たしかにホビーとされても仕方のない数字かもしれない。

 これに関連して、元Apple幹部のJean-Louis Gasséeは自分のブログ記事で、その昔Giorgetto Giugiaroのデザイン事務所であるItaldesignを訪ねた時のエピソードを紹介している。Gasséeはその時Giugiaroから「自分の仕事の中心は、工場でのよりよい生産プロセスを設計すること(車輌時代のデザインはオマケ)」などと聞かされ、大変に驚いたと記している。Dediuの考察を裏付ける見識と思える。

 Dediuは上記の記事に、19世紀末からのデータをまとめたグラフも載せている。そこでマッピングされているのは、米国市場における新規参入者(社)と退出者の数、車輌の生産台数、それに普及率の3つ。この約120年間の新規参入者の数は合わせて1556社、ただしピークは1914年で、同年には参入者と退出者とも100社を超えていた(「同年には普及率が初めて10%に達した」ともあるが、分母が世帯数かどうかの明記はない)。20世紀後半の50年間には新規参入者はわずか14社ですべてが失敗に終わったとある。

 自動車業界の規模などを示す数字としては、年間売上高2兆ドル以上、生産台数6600万台超、雇用者数約6000万人(直接雇用900万人、間接雇用5000万人)といったものが挙げられている。ただし、市場の売上規模を示す金額の比較(携帯通信端末などとの)はない。

 気になって検索してみたところ、日本自動車工業会のウェブページで「2013年の世界全体の四輪車生産台数は、前年より3.6%増加して8725万台」という記述が見つかった。

 一方、「世界の自動車販売台数は年間7577万台(2013年)」とするページもある。

 いずれにせよ、年間1億台に届くまでにはあと何年かかかる、といったところのようだ。

*****

 ところで、欧州では今週ふたつの大きなイベントが開催される。ひとつはスペイン・バルセロナのMobile World Conference(携帯通信業界最大の集まり)で、もうひとつはスイスのジュネーブであるモーターショー。

 前者については例年の通り、SamsungやLG、HTC、Huaweiなどがスマートフォンやスマートウォッチなどの新製品を発表している。だが、ご承知の通り、先週後半に出ていた「3月9日のApple製品発表イベント開催」のニュースでまたしても冷水を浴びせられていたような印象を受ける。

 後者の話題を採り上げたReuters記事には、ジュネーブでも「Apple Carに関する噂」が参加者の間で注目を集めそう、などと書かれてある。

 世界一になった、約7500億ドルというAppleの時価総額を持ち出して、「Daimler、Volkswagen、Renault、Peugeot、Fiat Chrysler、Ford、General Motorsの合計額よりも多い」と記しているあたりには、話を面白おかしく伝えようとする意図も感じられる(「Apple vs 自動車業界の既存プレーヤー」という対決の構図)。ただ、それとは別に「Carlos Ghosn(Renault-日産CEO)がジェノバに向かう前にバルセロナに顔を出す」などとあるところからは、2つのふたつの世界がますます近づいていることも感じ取れる。

 欧州各国を訪問中のAppleのTim Cookは、「Bild am Sonntag」というドイツの新聞とのインタビューで「Apple Car開発の計画の有無については明言を避けつつ、『売り上げは二の次、市場シェアも二の次、利益も二の次で、大事なのは優れた製品を作ることに集中すること』と述べた」とある。Cookの立場を考えればそう答えるしかないのだろうが、なんとも気を持たせる御仁である。

(敬称略)

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