リテール金融におけるITの戦略的活用 - (page 2)

A.T. カーニー論考 安茂 義洋

2015-03-16 06:00

直近5年で勢力図が塗り替わった米PFM

 先進ITの顧客接点へのインパクトについては、米国のPFM(パーソナルフィナンシャルマネジメント)の歴史に学ぶことが多い。PFMは、他社を含む複数の銀行、カード会社などの口座データを収集して、一元的に管理し、分析をサポートするものだ。パソコンソフトとして1990年代から存在したが、当時はあまり流行らなかった。しかしスマートフォンの普及を背景に、近年になって急速に利用者が拡大してきた。

 創生期においては、シティバンクやバンク・オブ・アメリカなどの大手金融機関が、顧客囲い込みのツールとしてPFMサービスを提供していた。2008年時点のナンバーワンプレイヤーはバンク・オブ・アメリカで利用者は250万人だった (*1)。

 しかし今日、市場に最も受け入れられているのは金融機関のサービスではなく、mintという2005年に創業したベンチャー企業である(2009年にIntuitが買収)。mintは2008年時点では18万会員しかなかったが、2013年には1200万以上の会員をもつ急成長を遂げた(*2)。つまり、2008年から2013年までの5年間に、PFM提供者の勢力図に大きな変化があったのだ。


スマートフォンへの対応で差がつく

 形勢が逆転した主原因は、スマートフォンを取り入れて、顧客の利用プロセスをリッチにしたmintに対し、バンク・オブ・アメリカは旧態依然とした機能を提供し続けたことにある。

 複数口座のデータが一元管理できるという点では、両者の機能は同等だ。データ収集のシステム機能については、mintもバンク・オブ・アメリカも、YodleeやIntuitというアウトソーサーに委託している(*3)。アウトソーサーは、利用者のID・パスワードを管理して、各金融機関から口座データを集めてくるシステムを運営している。mintとバンク・オブ・アメリカは、アウトソーサーが集めた口座データを、顧客に見せるフロント部分のみを運営しているのだ。

 mintのユーザーインターフェースは秀逸だ。スマートフォンの簡易かつリッチな画面で何時でもすぐに利用できる(家でPCを立ち上げる必要がない)。mintのスマートフォン・アプリの市場評価は高く、一方で、バンク・オブ・アメリカは、いまだにスマートフォンのPFMサービスを提供していない。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    ランサムウェア対策をマンガで解説、手口や被害のデータから見る脆弱性放置の危険性とは?

  2. セキュリティ

    セキュリティリーダー向けガイド--なぜ今XDRとSIEMの違いを理解することが重要なのか

  3. セキュリティ

    マンガで分かる「クラウド型WAF」の特徴と仕組み、有効活用するポイントも解説

  4. セキュリティ

    マンガで解説、「WAF」活用が脆弱性への応急処置に効果的である理由とは?

  5. クラウドコンピューティング

    生成 AI の真価を引き出すアプリケーション戦略--ユースケースから導くアプローチ

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]