直近5年で勢力図が塗り替わった米PFM
先進ITの顧客接点へのインパクトについては、米国のPFM(パーソナルフィナンシャルマネジメント)の歴史に学ぶことが多い。PFMは、他社を含む複数の銀行、カード会社などの口座データを収集して、一元的に管理し、分析をサポートするものだ。パソコンソフトとして1990年代から存在したが、当時はあまり流行らなかった。しかしスマートフォンの普及を背景に、近年になって急速に利用者が拡大してきた。
創生期においては、シティバンクやバンク・オブ・アメリカなどの大手金融機関が、顧客囲い込みのツールとしてPFMサービスを提供していた。2008年時点のナンバーワンプレイヤーはバンク・オブ・アメリカで利用者は250万人だった (*1)。
しかし今日、市場に最も受け入れられているのは金融機関のサービスではなく、mintという2005年に創業したベンチャー企業である(2009年にIntuitが買収)。mintは2008年時点では18万会員しかなかったが、2013年には1200万以上の会員をもつ急成長を遂げた(*2)。つまり、2008年から2013年までの5年間に、PFM提供者の勢力図に大きな変化があったのだ。
スマートフォンへの対応で差がつく
形勢が逆転した主原因は、スマートフォンを取り入れて、顧客の利用プロセスをリッチにしたmintに対し、バンク・オブ・アメリカは旧態依然とした機能を提供し続けたことにある。
複数口座のデータが一元管理できるという点では、両者の機能は同等だ。データ収集のシステム機能については、mintもバンク・オブ・アメリカも、YodleeやIntuitというアウトソーサーに委託している(*3)。アウトソーサーは、利用者のID・パスワードを管理して、各金融機関から口座データを集めてくるシステムを運営している。mintとバンク・オブ・アメリカは、アウトソーサーが集めた口座データを、顧客に見せるフロント部分のみを運営しているのだ。
mintのユーザーインターフェースは秀逸だ。スマートフォンの簡易かつリッチな画面で何時でもすぐに利用できる(家でPCを立ち上げる必要がない)。mintのスマートフォン・アプリの市場評価は高く、一方で、バンク・オブ・アメリカは、いまだにスマートフォンのPFMサービスを提供していない。