リテール金融におけるITの戦略的活用 - (page 3)

A.T. カーニー論考 安茂 義洋

2015-03-16 06:00

顧客接点を失い収益性が低下

 mintの主たる収入源は、各金融機関からの仲介手数料収入である。例えばmintの利用者が新たにクレジットカードや保険に加入したら、金融機関は手数料を支払う。これは付加価値構造の変化を意味している。差別化の源泉が、預貸や決済などの伝統的な金融商品自体から、ITを駆使したチャネルや付加サービスへとシフトしているのだ。

 この構造変化においては、顧客接点を担うプレイヤーが利潤を得て、バックエンドで商品を供給する金融機関の収益性は低下することになる。そして顧客接点を失った金融機関は、顧客を囲い込む手段を失い、まるで価格比較サイトで比較される業者のような立場に、追い込まれてしまうのだ。

 またmintは、mint自身と同様のサービスを、各金融機関が自社ブランドで提供できる仕組みも始めた(*4)。この提携関係において、金融機関はかろうじて表面上は自社ブランドを維持できるが、実質的な顧客インターフェースの担い手がmintであることに変わりはない。mintにとっては、収入源を安定、確実なシステム利用料へとシフトさせる意図があると考えられる。


 従前のトッププレイヤーとして、バンク・オブ・アメリカにもPFMへのこだわりはあったはずである。それにもかかわらず出遅れてしまったのは、それだけ顧客変化のスピードは想定外に速かったのであろう。

 また、従来のトランザクション系のシステム開発と、スマートフォンのアプリ開発では、求められる能力が異なるため、対応は容易ではない。前者は品質管理において、アウトプットが正確であることが検証される。後者はそれに加えて、顧客の利用プロセスが期待通りか否かが検証される。

 また、開発アプローチも異なり、前者はユーザー部署とシステム部署の境界線を明確にする方法論が適用されるのに対し、後者はユーザーとシステムは一体で進められる。つまり、IT組織能力の変革が必要であり、顧客変化のスピードについていけなかったと思われる。

顧客インターフェースとなるITは要注視

 先進ITというと、ビッグデータやクラウドも挙げられることがあるが、これらはバックエンドで動くITなので、顧客が直接に触れるものではない。中期的には価格やサービス品質に影響するが、顧客行動へのインパクトは比較的緩やかである。一方で、スマートフォン、Siriのような自然言語認識、ウェアラブルなどは、顧客インターフェースとなるITであり、あっという間に顧客の行動パターンを変えてしまう可能性を秘めているため、注視する必要がある。

 これらのITは、非金融サービスで先行して実用化されることが多い。しかし、その利用体験を通じて、顧客の期待は進化し、金融サービス利用における顧客行動が変化してしまうのだ。変化を見過ごして対応が遅れると、革新的サービスを提供する他社に顧客接点を奪われてしまう可能性がある。常にアンテナを張り、サービス開発体制を整えておくことが必要だ。

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