三国大洋のスクラップブック

大きな期待と見えない答え--「Apple Watch」は何を変えられるのか - (page 2)

三国大洋 2015年03月15日 08時00分

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 こうした流れがApple Watchにはプラスに働く――「ステータスシンボルとして宝石の入った高級時計をはめるわけにはいかないから、Apple Watch Editionならちょうどいい」といった声もあれば、「特に贈答用の高級品や贅沢品の市場が縮小しているのはApple Watchにとっても逆風」といった見方も出ている。

IT系媒体:どうとらえていいかがまだわかっていない

 Apple Watchは、ラグジュアリーグッズのデザインをやってみたかったJony Iveと、身体を鍛えるのが大好き(fitness buff)なTim Cookの意向を汲んで開発されたのではないか、というのが筆者の勝手な推測だが、そういうある種の「多面性」に戸惑っている様子がいちばん強くうかがわれるのがIT系媒体の報道ぶり。

 「ユーザーインターフェース(UI)=使い勝手がいまひとつ」「iPhoneでできる機能しか今のところない」など、従来のスマートウォッチ=IT製品(ガジェット)と同じ物差しでしかApple Watchについて意見を述べていないため、目にした記事の大半は印象に残らないものばかり。

 そうした中で「お金も身分証明書も入館証も航空券などのチケット類も家やクルマの鍵も家電などのリモコン類なども、いずれはこれ(iPhoneをはじめとするウェアラブル端末)に収斂されていくはず」「(スマートフォンではなく)ウェアラブル端末がユーザーと周りの物理的環境(Internet of Things)との接点になる」「この接点となるデバイスをまずは身に付けてもらわないと話が始まらないので、そのためにAppleはファッションアイテムとして売り込むことに力を入れている」などとするBen Thompson(Stratechery)の指摘は考えさせられる点が多かった。

 ただ「iPhoneでできる機能しか今のWatchにはない」といった点に対する回答(のヒント)、あるいは「Wachが普及した場合に社会がどう質的に変わるか」といった点についての具体的な話は出ておらず、その点に少々物足りない感じも覚えてしまう。

 ファッション系の媒体はどうかと思って検索してみたが、残念ながらやはりこれといったものは見つからなかった(昨年秋にはファッション畑の記者などが書いた、かなり辛口の批評を見た憶えもあるのだが)。

*****

 Bill Gatesが2月に自分の財団で進める取り組みを広く知ってもらう目的でThe Vergeのゲスト編集者を務めていたが、そのシリーズに「アジアやアフリカの新興地域でモバイルバンキングが普及し始めたおかげで、これまで銀行口座を持つことができなかった貧困層がようやく貧困から抜け出す糸口をつかみつつある」という話があった。

 この記事には「従来の銀行口座を持てない人が世界全体で約25億人いる。そのうちの約10億人はすでに携帯電話機を所有している」「ケニアではM-PESAというモバイルバンキングのサービスが普及したおかげで、2006年には3割以下だった口座保有者が現在では65%まで増加」「M-PESAを使った決済額は2014年にケニアのGDPの4割相当にまで増えた」などと書かれてある。

 また「アフガニスタンでは警察官への給与支払いにM-PESAと似たサービスを使うようになった(現金で支払っていた時には、約半分が途中でどこかに消えていた)」「タンザニアではタクシーの料金をモバイルマネーで支払える」などともある。

 この記事が印象に残っていたのは、特にモバイルバンキングがもたらした恩恵が面白かったからだ。たとえば家庭の財布を預かり、家計を支える女性が、わざわざ自分で市場まで農産物を売りに出かけなくてもよくなったこと、あるいは子供の将来などを考えてきちんと貯蓄ができるようになったことなどが書かれてある。

 また同じ事柄に触れたGates財団の報告には、この点について「現金ベースのこれまでやり方では(銀行の窓口も近くにはないことなどから)、宝石類や家畜類といった換金しにくいものにお金を替えるか、そのまま現金でしまっておくしか手がなく、それだと流動性に欠けていざというときに困ったり、誰かに取られたりして簡単に失う危険も多かった」などとある。

 余談になるが、高倉健が主演した日本映画『日本侠客伝 花と龍』には、しっかり者の妹(星由里子)が貯めた給金を山本麟一扮する仲仕の兄が勝手に持ち出し、酒を飲みに行ってしまう場面がある。この話の設定は今から100年くらい前の北九州(若松・戸畑周辺)だが、それと同じようなことが新興国では今でも珍しくはないということか。

 新興国におけるモバイルバンキングのような大きな質的変化がそうそうあるとは思えない。けれど、テクロノジ関連の話題となると、いまだにそんな大きな変化を期待してしまう。Apple Watch関連でまだ「これは面白い」という話に出会えていないのは、そんな当方の過大な期待のせいかもしれない。

(敬称略)

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