企業におけるクラウドサービスの利用が拡大している。
クラウドサービスのメリットも広く認知されつつあり、ユーザー企業では、クラウドファーストの方針で自社システムの更改や導入検討を進める企業も増えてきたのではないだろうか。一方で、導入検討現場に目を向けると、セキュリティやサービス品質などに関する不安が完全に収束しているとはいえない。
本稿では、企業がクラウドサービスを活用する際に避けて通れない「リスク」に着目して、「いつ」「どんなリスクを」「どのような手段で管理すべきなのか」を中心に改めて整理していく。クラウドサービスの検討時に社内から聞かれる「クラウドで本当に大丈夫なのか」という疑問や不安に応えたい。
今回は環境の特徴とともに、ユーザー市場やリスク管理の動向を中心に整理する。
クラウドサービスで論点となるリスクは、クラウドサービス固有の環境やサービス特性と関係が深い。クラウドサービスのリスク管理は、これまでのオンプレミス環境に対するリスク管理と目的は相違ないが、管理対象となるリスクが特徴的なものとなる。
以降、まずはクラウドの市場への浸透状況と現状のリスク認識の整理を進める。
なお、本稿では企業規模や業態を問わず幅広く利用が期待されている「パブリッククラウド」を前提に進めることをご了承頂きたい。また、記事は筆者の私見だ。
クラウドサービスの市場動向
国内のクラウドサービスの市場動向について、総務省発表の情報を整理する
(1)クラウドサービス利用状況(全体) ・国内の約50%の企業が既に利用している、もしくは利用する予定がある
(2)クラウドサービス利用状況(業界/規模) ・金融・保険業界の利用が43.5%で最大。その他業種の利用は30~35%前後で推移している ・資本金が50億円以上の企業の58.2%で利用されている
(3)利用サービス種別 ・インフラやコミュニケーションツールを中心に浸透している ・Eメールやファイル保管・データ共有、サーバ共有など
(4)クラウドサービス導入の理由 ・主に、資産や保守体制を自社で持つ必要がないことに魅力を感じている
(5)クラウドサービスを導入しない理由 ・セキュリティへの不安やコンプライアンスへの影響の懸念がある。 ・また、そもそもクラウドを採用する必要がない、導入メリットが分からない(多数)
2006年にクラウドという言葉が使われて以後、10年弱の歳月が流れているが、ベンダーの盛り上がりと比較して、ユーザーは冷静に見ていた時期が長くあったのではないだろうか。
ユーザーにとって、クラウドサービスが「何者なのか」という見極めのための情報が錯綜していたとともに、市場として落ち着きを見せたころに、大規模な障害によりユーザーに影響を及ぼす事故なども発生し、社会的なイメージ低下も招いていた。
一般的に新技術のメリットを享受するには、デメリットや将来的なリスクを十分に把握できる管理体制が欠かせない。小さく利用を開始してリスクを見極め、順次利用範囲を拡大させるという手法を採る例も多い。一方で、このようなチャレンジができるのは、ITエンジニアのみならずリスク管理業務に対する十分なリソースを裂ける企業である場合が多い。
今後、クラウドサービス利用の拡大には、クラウド環境のリスクに関するベンダーとユーザー双方の認識共有の徹底が欠かせない。
ベンダーには、これまで大企業主導で提供してきた実績をもとに、サービス品質の改善につなげるとともに、ユーザーのリスク管理負担軽減のために、より一層の情報開示が期待される。また、ユーザーにも、ベンダーと連携した情報収集により、投資意思決定者に対してメリットともに、導入に伴うリスク共有や合意することを徹底するように心がける必要がある。