人工知能研究者として突き当たった現実的な問題
プライスウォーターハウスクーパース(PwC)社長の椎名茂氏は、コンサルティング業界に入る前、NECで人工知能の研究に取り組んでいた経歴を持つ。転身のきっかけについて聞いた。
「わたしはエキスパートシステムの研究をしていました。アルゴリズムを組み上げて一定の制約条件を満たすモデルを構築するわけですね。ある時、人工知能の技術を応用した生産計画系のシステムを手掛けて、お客様に採用していただくことがあった。ところが、使えば必ず10%前後は効率化されるはずなのに、現実はうまくいかない。そこでさまざまな外部要因を知ることになりました」
プライスウォーターハウスクーパース社長の椎名茂氏
うまく効率化できなかった理由は、需要予測が正確ではなかったことが挙げられるという。営業や販売関係者は欠品を恐れ、いつも通り多めの重要予測を立てていた。それでは、生産計画を立てる担当者は、新しいシステムを使って素早く計画を立てることはできるが、全体の収益は改善しない。
「営業部門に在庫に対する責任を持ってもらうようにすれば、彼らも需要予測をきめ細かくするようになるはずだ、と提案したんです。すると、それはコンサルタントに頼んで検討してもらっているという返事が返ってきた」
椎名氏は、コンサルタントの提案の中身を見せてもらったそうだ。「ああ、これなら自分でもできそうだと思ったんです」と椎名氏は笑う。
おそらく椎名氏は、部分的な改善だけではなく、テクノロジとマネジメントによる全体最適を目指すことが、早期の問題解決につながるということをそのとき実感したのではないだろうか。
戦略系コンサルティング企業との統合で見えてきたこと
全体最適という意味では、2014年に完了したPwCとBooz & Companyとのグローバル統合もその一例かもしれない。Booz & Companyは戦略系のコンサルティングファームで、PwCよりも人員は少ないが最高経営責任者(CEO)や経営企画部門などにアプローチする。
「従来のPwCのコンサルタントは最高情報責任者(CIO)、最高財務責任者(CFO)、最高マーケティング責任者(CMO)といったCxOとコンタクトし、プロセス改善の手伝いをすることが多かった。Boozと統合してみて、予想以上にシナジー効果がでてきています。仮説検証型の戦略提案を経営トップに対してコンサルティングするチームと、グローバルに20万人の人員を配置してプロセスのトランスフォーメーションを実施し、監査や税務、財務関連のアドバイスができるチームがコラボレーションする。こういうコンサルティングファームはこれまでは存在しなかったはずです」と椎名氏は語る。
椎名氏は「カテゴリーオブワン」という言葉で、今回の統合も含めたPwCの将来像を語る。「カテゴリーオブワンは当社が標榜する企業像です。競合他社と類似しない唯一無二のカテゴリに属する企業として、お客様に最大限の価値を提供するということですね」
そうした企業として成長していくためには、顧客のあらゆるコンタクトポイントに接することのできる体制、最先端の技術や知見を応用できるスキルなども必要だが、何よりも人材の育成が重要と椎名氏は話す。
「さまざまなバックボーンを持つ人材をグローバルで集めていく必要があります。コンサルティング業界に長くいる人だけでなく、あらゆる業種、職種の経験者がいてこそ、カテゴリーオブワンの企業たりえる。基本的な資質としては、やはりガッツがあって人と話をするのが好きな人間ということになると思います」