まず人材マネジメントの変革が必要
カテゴリーオブワン企業の人材像を聞いていると、この条件は、あらゆる企業に当てはまるかもしれない。椎名氏は次のように語る。
「日本が技術大国だというなら、技術に対するリスペクトをしっかり表す形で人材活用しなくてはならないと思います。多くの日本企業が採用している人材育成、給与体系、その他もろもろの待遇などを変えていかないと、グローバルで優秀な技術系人材を集めることは難しくなっていくでしょう」
さらに椎名氏は、情報システム部門の人材育成についても指摘する。
「これからのCIOは、経営全体の実相を分かりやすく部門内に伝えながら、進化の早い技術を活用して企業価値を高めることのできるシステムアーキテクチャをどう作り上げるか、といったことを議論できなくては務まらない。多くの企業のシステムアーキテクチャは、複雑化してしまっていてビジネスの変化についていきにくいものになったままです。この課題をクリアするITリーダーを育成するには、人事のローテーションも含めて時間をかけた戦略的なものになるでしょう。もし、現在そうしたCIO人材がいないのなら、外部から招へいする形をとってもいいかもしれないですね」

円安、原油安の効果で、製造業を中心とした日本のグローバル企業は、足元においては概ね良好な経営環境にある。しかし、海外で買収などによって傘下に収めた企業のマネジメントがうまくいかず、思ったような収益が上がらないというケースも一方ではある。
システム面でのガバナンスを効かせるのが遅れ、業績の実態が把握できず、状況がかなり悪化してからの対応になってしまうのだという。人材面での話で、多くの日本企業が抱えるシステムアーキテクチャの課題が出たところで、話題をそちらに向けてみた。
椎名氏は、この課題は日本企業がグローバル化する過程で最初に乗り越えなければならない壁だと表現する。
日本企業がグローバル化で最初に突き当たる課題
「国内中心のビジネスを進めていた段階で統合基幹業務システム(ERP)を導入し、さまざまな特殊事情を加味してシステムを徹底的に改変してきた企業が多いので、アーキテクチャを最初から整理しきれていないケースが多いのです。日本企業は豪腕をふるって有無をいわせずマネジメントするのは苦手です。それならば、システムによって数字だけは正確に把握しておかなくてはならない。しかし、特殊な形で仕上がっているシステムをスムーズに海外の子会社に応用するには、膨大な時間がかかってしまう」
PwCでは、多くの基幹系システムの更改案件が舞い込んできているという。依頼する側は、日常当たり前のように利用しているので、二重三重にカスタマイズされた基幹システムの特殊性が理解できないケースが多い。
椎名氏は、複雑化したシステムの概要を整理し、最適なアーキテクチャの内容を導き出すことについては、コンサルティングを活用するのもスピーディーな解決につながると話す。
「何が問題で、どこを変えなくてはならないか、ということはなかなか内部からは見えてこないものなのです。ERPの改革は大きな仕事になり、あつれきも生みやすい。そういう意味でも、外部の力を利用することは良い効果を出す一手と言える」
椎名氏は、海外ビジネスの要諦はいかに素早く収益化するかだという。収益化できるまで時間がかかっているということは、内部に隠された問題がガン細胞のように肥大化しつつあるということなのだろう。そのためにも、システムで経営を迅速に可視化する必要が出てくる。