全てをつなげることで”センス”を獲得する
シスコが提唱するIoEのコンセプトにはモノ以外にも人やデータ、ビジネスプロセスも全てネットワークにつなげて境目をなくす、という考え方が含まれている。近年のICT技術の発展は目覚ましいが、それでもまだ至る所でつながりが切れている。
例えば先ほどの営業の例では、案件獲得のプロセスや、提案成否のデータ、人のつながり、行動履歴など、あらゆるものがつながりを欠いている(図2)。
その結果、その受注がどんな成功プロセスだったかという知見が共有されなかったり、担当者の異動でそれまで地道に育ててきた新規案件の芽を摘んでしまったりなど、あらゆる面で取りこぼしが発生している可能性があるのだ。
企業の価値の源泉は結局のところ「ヒト」であることに異論はないであろう。そしてヒトの経験やつながり、頭の中にあるイノベーションの種などは、最初は極めてアナログな状態であり、そのままでは活用しにくい。ここで”センス”の良いデータ活用の出番がやってくる。
センスを獲得するステップは3ステップだ。
- 「本質的な問い」は何であるかを導き出す
- 「全てがつながったらどうなるか」という観点を持つ
- 「全てがつながった世界」を具体的に想像する
先ほどの営業活動の例で考えてみよう。まず本質的な問いとして「営業担当の会社への売上貢献とは何だろう」というところから始めるとしよう(以下は全て仮定の話である)。考察の結果、今の売り上げは1年以上の前の「仕込み」が効いていることに気が付いた。
ではその仕込みとは何かを追求していくと、営業担当のひらめきや人脈、熱意によるものであることが分かった。そしてその活動は社内のさまざまな有識者とのミーティングの回数や、社外活動への参加回数、顧客への訪問やメールの回数などのデータで表現できるだろう。
売ろうとしている製品やサービスが分かれば、1年後の売上期待値も計算できそうだ。ではこれらのデータが全てつながって、誰にでも見える情報としてまとめられていたらどうだろうか。
ある営業担当が1年後を見据えた仕込みの活動をしていることを、業績として評価できるのではないだろうか。業績として評価できるのであれば、営業はより高いモチベーションをもって仕込みに励むだろうし、その結果として常に1年先のビジネスを見据えた営業活動ができるのではないか。
これがIoT/IoEによって期待できる企業価値のバリューシフトの一例である。”センス”とは”察する能力”であると定義したが、このように本質的な問いとデジタルテクノロジを効率的に掛け合わせていくと、企業にとって本当に必要な打ち手を「察する」ことが可能になるのだ。
やみくもにデータを集めて解析して何も洞察が生まれないという現象は、このステップを踏むことによって回避できるだろう。