米国でLending Clubが上場して以来、オルタナティブレンディングの領域が騒がしい。1つの流れは、Lending Clubのように、N:Mで個人の投資家と借り手を結びつけていくPtoPレンディングである。もう1つは、従来のように1:Nであるが、スコアリングモデルのイノベーションを通じて、これまで貸せなかった先にも貸し出しができるようにする方法だ。
Finextraによれば、クレジットレーティングの大手であるFICOは、新しいスコアリングモデルを開発し、クレジットヒストリーがない、つまり金融取引の履歴がない人たちにもクレジットスコアを提供するという。スコアの算出にあたっては、住宅の賃借料、電話料金、電気・ガス料金などの支払い履歴を参照するとしている。金融機関との取引はこれまでなくても、きちんと支払い能力があることを証明するためのデータを取り込もうということである。
こうした動きの背景には、米国のような成熟社会における移民の問題がある。例えば南米から移住してきた人の場合、収入はあっても金融取引の履歴がないために、金融機関との取引ができない。新興国においては、経済成長に伴って収入が増えているにも関わらず、金融取引の履歴がないために、金融機関との取引が行えないという問題が生じている。
新興国においては、そもそもFICOのようなクレジットデータを蓄積するサービスが存在していなかったり、あっても十分に機能していないことが多い。そのため信用情報の確認のために、わざわざ調査員が自宅や職場を訪問するなど、金融取引に関わるコストを上昇させる要因になっている。
しかし、新興国の市民は、銀行口座は持っていなくても、スマートフォンとソーシャルメディアのアカウントは持っている。そこに目をつけて新しいスコアリングアルゴリズムを構築したベンチャー企業がある。
Lenddoという2011年に設立された香港ベースのスタートアップで、現在はフィリピン、コロンビア、メキシコでサービスを展開している。同社は、Facebook、LinedIn、Twitterなどのソーシャルメディアの情報を用いて、クレジットスコアを算出する。
Forbesによると、Lenddoはソーシャルネットワーク上のつながり、メッセージ、ページ参照、検索、位置情報などを分析して、そのクレジットスコアを弾き出す。そして、自ら貸出実績を積み上げることでその精度を高め、今年からはそのスコアリングのサービスを金融機関向けに提供するという。
Lenddoは、APIを通じてクラウドサービスとしてスコアリングを提供する。例えば、借り手が金融機関を通じてオンラインでローンの申し込みを行うと、ソーシャルメディアの情報提供への同意を求められる。借り手がそれを了承すると、Lenddoにてソーシャルメディアの情報に基づいたスコアリングが行われることとなる。
新興国では、銀行口座はなくてもスマートフォンとソーシャルメディアを持っている市民は多い。そうした国においては、過去の金融取引に基づくリスク判断ではなく、ソーシャルメディアによるリスク判断が有効という訳である。
現在の先進国がその発展の過程においてソーシャルメディアを持たなかったことを考えれば、ソーシャルメディアを活用して信用リスクのスコアリングができることは、新興国の市民の経済力向上のスピードアップに資することになるだろう。すでに新興国の経済成長は先進国を大きく凌駕しているが、テクノロジを活用した金融サービスの登場によって、その速度は益々速まることになるだろう。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。