特定の市場セグメントを理解しているベンダーが開発したオンデマンドツールは、「業界クラウド」サービスの主役だ。
しかし、企業の要件について、そこで何年も働いている社員以上に精通している者などいない。
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さらに、自社のニーズに合ったクラウドベースサービスを社内のチームで開発することは、かつてないほど簡単になっている。
その作業が簡単になったのは、AmazonやGoogleといった大手プロバイダーが、クラウドベースのインフラストラクチャやサービスという形で、ビルディングブロックを大量に提供しているからだ。こうしたサービス間でのデータの展開や交換は、自動化によって簡素化されており、その自動化は、「Chef」や「Puppet」などのツールによって自動で構成と制御ができるAPIが実現している。
英紙The Financial Times(FT)は自社のオンラインサイトのニーズに対応するため、「FT Platform」を開発した。同プラットフォームは、社内サーバとAmazon Web Services(AWS)の「Amazon Elastic Compute Cloud」(EC2)プラットフォームの両方で、仮想インフラストラクチャとその上で動くソフトウェアの展開と管理を自動化する。
「今でもFT Platformを見て、『開発した甲斐があった。製品にはまだ不可能なことをできるようになったからだ』と話している」。FTの最高技術責任者(CTO)を務めるJohn O'Donovan氏はこのように述べた。
FTの最高技術責任者(CTO)John O'Donovan氏
「メディア企業は非常に気まぐれなので、完ぺきなメディアソリューションを作ったと思っても、メディア企業に見せるとこう言われるかもしれない。『とても気に入ったが、今はこういう風にやりたい』。Amazonが非常に得意なのは、適切な部品をすべて組み合わせて、ツールキットを作ることだ」(O'Donovan氏)
タブロイドによく取り上げられるKim Kardashianさんは、パブリッククラウドインフラストラクチャの構築と破壊がごく短期間で可能になることを証明した。Kardashianの臀部が写った写真が大きな人気を呼び、それが原因で「インターネットが壊れた」と言われたときのことだ(編集部注:Paper誌は11月、「Break The Internet」という試みで、同雑誌の表紙にKim Kardashianさんのヌードに近い過激な写真を掲載した。Break The Internetは、「インターネットを壊す」ほど、ソーシャルメディアなどで大きな注目を集め、シェアされたリンクや画像へのアクセスが殺到することを狙ったものだ。Kim Kardashianさんは、米国のリアリティテレビスターで、ソーシャルメディアに過激な自撮り写真などをたびたび投稿して話題を集めてきた人物)。
「Paper誌はKim Kardashianの写真を撮影した後、6日間でウェブサイトを強化し、先例のない需要に対処した」(O'Donovan氏)
「同誌はAmazonから多くの部品を手に入れて、それらを組み上げ、膨大な数のユーザーにサービスを提供した後、それらの部品をすべて破棄した。このような柔軟性をメディア企業は求めている。考えられないくらいに(トラフィックが)急増することがあるからだ。ある時間帯に、トラフィックはゼロから一気に跳ね上がる」(同氏)
生産性が30倍に向上
FT Platformは、The Financial Timesオンライン版の中核をなす部分を支えている。すなわち、ニュースやその他のコンテンツを提供する「Apache HTTP Server」と「Apache Tomcat」ソフトウェア、DNSサーバ、「MySQL」データベース、サイトを高速に読み込める状態に維持する「jetNEXUS」負荷分散ツールだ。
FTの開発者は、コードの構築とテスト、そして本番環境への展開を1日で完了することができる。従来のプラットフォームでは、この作業に30日程度かかっていた。
生産性が30倍に向上した要因は、開発者と本番環境の間のパイプラインが自動化されたことだ。新しいコードは「Git」から「AntHill Pro」に移されて、構築とテストが行われた後、QA(品質保証)環境、テスト環境を経て、最終的に本番環境に展開される。この一連のプロセスはすべてPuppetを使って管理される。
O'Donovan氏は、「FT Platformは自動化できるものをすべて自動化する」と述べ、「今では、APIを持たない企業は相手にしない」と付け加えた。
コードとインフラストラクチャの展開に関連する手作業の大半を排除したことで、FTはオンラインサービスを以前よりはるかに短期間でアップグレードできるようになった。