松岡功の一言もの申す

オラクル幹部が語る「エンタープライズSaaS」の勘所

松岡功

2015-04-15 12:00

 日本オラクルが4月9日と10日に都内で開催した「Oracle CloudWorld Tokyo 2015」では、オラクルのクラウド事業への意気込みが十分に感じられた。中でも印象的だったのは、SaaS事業への注力ぶりだ。米Oracleの同事業責任者に取材する機会を得て興味深い話を聞くことができたので、筆者の考察とともに記しておきたい。

「クラウドをサイロ化させないこと」に注力

 「オラクルのSaaS事業戦略は一言でいえば、お客様に“エンタープライズSaaS”を提供することにある」


米Oracle アプリケーション開発&プロダクトマネジメント担当バイスプレジデント Doug Hughes氏

 米Oracleアプリケーション開発&プロダクトマネジメント担当バイスプレジデントのDoug Hughes氏は、SaaS事業戦略の最大のポイントを聞いた筆者に対してこう答えた。

 エンタープライズSaaSとは何か。それがユーザー企業にどのようなメリットをもたらすのか。今回のイベントでのHughes氏の講演と個別取材から、とくに同社が提供するSaaSのユーザーメリットに注目してみたい。

 Hughes氏はまず、SaaSなどのクラウドがもたらすユーザーメリットとして、「ITの簡素化」「IT支出のコストパフォーマンスの向上」「ビジネスプロセスの最適化のスピードアップ」「イノベーションの推進」「国際的レベルのセキュリティとコンプライアンスの実現」といった点を挙げた。ただし、これらはオラクルのクラウド特有ではなく、一般的に言われるクラウドのメリットである。

 では、オラクルのSaaS特有のユーザーメリットとは何か。この点でHughes氏の話から筆者がとくに注目したのは、「クラウドをサイロ化させないこと」である。

 クラウドのサイロ化とは、例えば企業において、それぞれの業務部門が異なるSaaSを導入して連携がとれなくなってしまう状況に陥るケースのことだ。こうなると、全社のIT環境としてガバナンスがとれなくなり、コストもかさんでしまう。オラクルのSaaSなら、なぜサイロにならないのか。

クラウドアプリケーションのあるべき姿を追求

 Hughes氏によると、「われわれは、SaaSとして提供するクラウドアプリケーションのデザインはどうあるべきかという観点から、その構造を再構築した」と言う。具体的には、それぞれのアプリケーションを基盤部分とフロント部分に分けて構築し、基盤部分を共通化することで、異なるアプリケーション間の連携をとれるようにした形だ。

 例えば、図に示したのが、人事管理アプリケーション「Human Capital Management(HCM) Cloud」の構造だ。上段は「人材管理」や「能力管理」などのフロント部分、下段は「ベストインクラスPaaS」から「共通のセキュリティおよびアイデンティティ・サービス」まで5つのレイヤからなる基盤部分である。


「HCM Cloud」に見るオラクルのクラウドアプリケーションの新構造

 ミソとなるのは、この基盤部分において、アプリケーションが異なっても入れ替わるのは、下から2つ目のレイヤの「統一された社員マスター」、すなわち対象となるデータのみという点だ。例えば、アプリケーションがERPだと「統一された財務マスター」、サプライチェーン管理だと「ユニバーサルな製品マスター」に入れ替わる格好だ。

 ほかの4つのレイヤを共通化することで、異なるアプリケーションを容易に連携できるようにし、SaaSによるクラウドがサイロ化しないように施されているのである。Hughes氏は、「この仕組みがエンタープライズSaaSという考え方だ」と語った。

 だが、オラクルが提供するエンタープライズSaaSは、ユーザー企業から見ると、IT環境全体が同社による“ベンダーロックイン”を招く形になりかねない。ユーザーとしては、クラウドのサイロ化を防いで全体最適化を重視するか、クラウドの選択肢を重視するか、悩ましいところではある。

 今回のイベントで基調講演を行ったOracle会長兼最高技術責任者(CTO)のLarry Ellison氏は、「クラウドの仕組みや運用については、ITのプロであるわれわれに任せていただいて、お客様はそれを利用して業務の生産性向上やビジネスの拡大に注力していただきたい」と訴えた。

 エンタープライズSaaSはまさにこの考え方に基づいたソリューションといえる。ユーザーにとって今後のクラウド活用のありようは、どんな形が最適なのか。エンタープライズSaaSは、オラクルがその1つの形を明示したものであることは間違いない。

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