「モノのインターネット(Internet of Things:IoT)」市場は、急速に拡大している。米IDCは2014年、「世界のIoT市場は、2020年には71兆ドル規模になる」との予測を発表した。実際、海外ではIoTを利用し、既存の既存ビジネスを強化したり、新規ビジネスを立ち上げたりしている企業が目立つ。
IoTはビジネスにどのようなインパクトをもたらすのか。日本IBMソフトウェア事業本部 Analytics事業部 ICP エグゼクティブ ITS-IoT 鈴木徹氏に話を聞いた。
――IoTでビジネスを活性化する機運が高まっています。既に活用している先端企業では、どのような取り組みをしているのでしょうか。
日本IBMソフトウェア事業本部 Analytics事業部 ICP エグゼクティブ ITS-IoT 鈴木 徹氏
「ビジネスを変革するIoT」とは、モノから得られる情報と、バックエンドにある既存システムとを連携させて新たな価値を見出し、次のビジネスへと発展させることです。
IoT活用の先端的な事例として、欧州の自動車メーカーであるPSA Peugeot Citroenの「コネクテッドカー(Always connected)」があります。走行中の自動車から位置情報やスピード、加速度、温度、振動など、さまざまなデータをIoTで収集し、そのデータを基幹システムと連携させて分析することで、詳細な自動車走行状況が分かります。
こうしたデータを、プライバシーに配慮した形でパートナー企業と共有すれば、運転状況によって保険料が低減される、いわゆる「テレマティクス保険」と呼ばれる新商品の開発に活用できるのです。
IoTのビジネス化を実現するにあたり留意すべきは、データ分析の手法です。従来のデータ分析は、貯まったデータを多角的に分析し、そこから知見を得ることに重点が置かれていました。もちろん、こうした手法は従来のビッグデータ分析には有効ですが、IoTの“特性”を生かしていない。「リアルタイムかつ双方向でデータのやり取りし、アクションを起こせる」ことが、IoT最大のアドバンテージなのです。
こうしたIoTは、製造業の現場で力を発揮します。例えば、製造ラインの現場へリアルタイムで分析結果情報を伝えて対応を改善したり、制御と保守を自動化したりといったことが可能です。具体的には「パイプラインの制御システムで、油圧の急減が検知されたら数秒で元栓を締める」といった具合です。
PSA Peugeot Citroenの「コネクテッドカー」
――IoTに対しては「さまざまなことができる」という期待がある一方、「何から着手すべきか、ビジネスにどう活用すればいいか」と悩んでいる企業も多いと聞きます。
IoTで絶対にやってはいけないことは、基幹システムと同じ考え方で、IoTシステムを構築することです。当然ですが、システムのライフサイクルがまったく違う。従来の基幹システムの開発は「ウォーターフォール」と呼ばれる手法で「3年かけてシステムを構築し、10年運用する」ライフサイクルです。
しかし、IoTは、ライフサイクル自体が3年未満なのです。例えば、3年後にはモバイルデバイスの主流が、スマートフォンではなくウエアラブルデバイスになっている可能性もあります。ですから、「3年後に取り替え可能な部品で構成されたシステム」である方が都合が良いのです。IoTの最初の一歩は、センサが収集したデータの可視化です。しかし、グラフツールを用意して自社でサーバを立てるなどは、時間的に無理ですよね。
――「取り替え可能な部品によるシステム」という柔軟性を持たせることで、荒唐無稽なアイデアでも「まずは作ってみよう」というマインドセットができますよね。
IBMは2014年10月、IoTを構成するデバイスの接続を促進する「Internet of Things Foundation(IoT Foundation)」の提供を開始しました。IoT Foundationはクラウドベースのフルマネージドサービスで、「IBM SoftLayer」(IaaS)を基盤とする「IBM Bluemix」(PaaS)環境内で配備されます。
IoT Foundationには、IoT用のデバイスが「レシピ」という形で予め登録されています。ですから、デバイスのセットアップに使われるスクリプトをクラウド上に用意し、ダウンロードすればすぐに利用できます。ITに精通していないLOB(ビジネス部門)ユーザーでも、ドラッグ&ドロップでAPI(Application Programming Interface)を自由につなぎ合わせることが可能です。
IoTシステムには、個々の機能を組み立ててシステムを構築できる「コンポーザビリティ」という概念が必要だと考えています。IoT Foundationであれば、LOBユーザーが、「ここを便利にしたい」「こんなアプリがほしい」というアイデアを、自らがツールを使って作成できるのです。実は、こうしたツールが、LOBユーザーとIT部門の間に横たわる“ギャップ”を解消すると考えています。