なぜ六ケ所村か
今回、六ケ所村が選ばれた主な理由がもう1つある。青森県が「科学技術創造圏」を作るとして全面的にバックアップする、むつ小川原開発地区事業の存在だ。
新むつ小川原株式会社を中心に、青森県をバックにさまざまな事業を誘致しようとしており、用地取得や設備投資に対する補助金の給付など、県がさまざまな形で優遇する。
データセンター新設に向け、直接的な関係があったのが、電気料金の割引だ。割引制度の種類は2つ。「原子力立地給付金」と「原子力発電施設等周辺地域企業立地支援給付金」で、いずれも国が交付するもの。
前者なら、キロワットあたり月額750円に、契約電力と月数を掛け合わせた額が給付される。契約電力が1000kwの企業の場合、750円×1000kw×12カ月で、年間900万円の補助が受けられる計算だ。
六ケ所村は下北半島の南に位置する
ここから分かる通り、青い森クラウドベースデータセンターの開設は、青森県と県内の多数の金融機関、学術機関も絡めた東北の一大プロジェクトと言える。
4月21日に六ケ所村で開催された着工式には、青森県の副知事、佐々木郁夫氏をはじめ、六ケ所村の村長である戸田衛氏、青森銀行、秋田銀行、みちのく銀行、日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、八戸工業大学などのそれぞれ経営トップ層が参加した。
原子力立地給付金という名前の通り、鍵となる電気料金割引の名目は、核燃料サイクル事業を手掛ける六ケ所村近くで新事業を展開する企業を対象にしたもの。一般に、六ケ所村は、使用済み核燃料の再処理工場で広く知られているが、今回のデータセンター開設も原子力行政と結び付くことが分かる。
むつ小川原開発地区パンフレットに書かれた原子力立地給付金の説明
六ケ所村の核燃料サイクル事業とは、日本各地の原子力発電所から、六ケ所村再処理工場に輸送される使用済み核燃料から、プルトニウムとウランを取り出して、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」などで使用して新たなエネルギーを作り出そうというもの。
だが、核燃料をめぐる事故やトラブルが相次ぎ、また、東日本大震災における福島第一原発の事故の影響もあり、もんじゅも現在は稼働していない。六ケ所村の再処理工場の稼働はこれまで20回以上延期され、現在は2016年3月になる予定になっている。ただし、工場は稼働していないが、現在も、六ケ所村は全国から集まる使用済み核燃料を受け入れ、保管する役割を担っている。
1人あたり所得は1367万円で7年連続トップ
放射能のリスクを取ることの対価と言えるのか、六ケ所村には国から多額の補助金が集まっている。人口1万1000人あまりに対して、年間の予算は160億円ついている。内訳は主に、日本原燃の社員が支払う村民税、国や県からの補助金だ。
六ケ所村の1人あたり所得は1367万円と言われており、青森県の中で、7年連続でトップに位置している。なお、この金額は企業所得や雇用者報酬などを合わせて人口で割ったもので、給与とは異なる。
そうした背景の中で、国の原子力行政が揺れ動いていることは村民の悩みのタネと言える。3月発行の「ろっかしょ議会だより」には、核燃料サイクル施設の稼働延期が続いていることに、村民が財政や雇用面で不安を持っていることが書かれていた。稼働が開始することで、固定資産税という形で新たな収入が入るとも言われる中、核燃料サイクル施設建設について、当初反対活動があったものの、現在はほとんど反対派はいなくなったという。
村長の戸田氏は「原発以外の事業を育てたい」と話している。既に、風力発電などに注力しており、新たな取り組みとして、データセンター事業に期待を寄せている。副知事、佐々木郁夫氏は「むつ小川原地区をデータセンターの基地にしたい」との意気込みを語った。
新データセンターは、補助金や電気料金割引など原発行政に深く関わる事業であるものの、冷却などに最新技術を使い、スペックとして非常に高い水準のサービスをユーザーに提供し得ることも事実だ。
六ケ所村に入ると、多数の風力発電施設が目に入ってくる