クラウド大手のSalesforce.comは米国時間4月23日、人材活用という視点に立った市場拡大の取り組みの一環である「Salesforce for HR」を発表した。これにより、OracleやWorkdayといった企業と特定の領域で戦いが繰り広げられる可能性もある。
Salesforce.comにとって、人材管理分野への進出は自社のプレゼンスを大きく高めるという意味を持っている。同社は最近、「Salesforce Analytics Cloud」をローンチしており、エンタープライズ向けのクラウドアプリ一式を取りそろえた企業を目指して突き進んでいるようだ。
同社は今回の取り組みについて「従業員のサクセスプラットフォーム」と銘打っており、企業が顧客に対して用いるSalesforce.comのツールやアプローチを、従業員のエンゲージメントにも使えるようにすることを目的としている。なお、シカゴでの顧客向けのイベント「Salesforce World Tour Chicago」で、同社の最高経営責任者(CEO)Marc Benioff氏がSalesforce for HRの概要を説明する予定だ。
Salesforce.comによると、Salesforce for HRは同社のクラウドやソーシャルツール、モバイルツール、データサイエンスツール上に構築されているという。Salesforce for HRは当初、既存の人的資源管理システムを補完するものとして、そしてエンゲージメントツールになるものとしてローンチされる。
同社の製品マーケティングディレクターであるBobby Amezaga氏はインタビューで、Salesforce.comは同社のテクノロジを、顧客が自らのものとして活用できるようにしていると述べている。そういった点で、企業が顧客のエンゲージメントを図る際と同様に、同社の「Service Cloud」を用いて従業員のエンゲージメントを図ることになる。
同社の戦略が理論的にうまく機能するのは、Workdayといった企業のツールがレコードや財務データなどに注力している一方、Salesforce for HRは従業員のコミュニケーションやコラボレーション、つながりを強化するエンゲージメントツールになるべく注力しているためだ。興味深いことに、多くの人事管理システムも、ソーシャル面やコラボレーション面でのレイヤを追加し始めている。
Salesforce for HRは以下のようなシナリオを想定している。
- 従業員のジャーニー:従業員の入社から育成に至るまで、複数の手段を用いて1対1のエンゲージメントを提供する。
- コミュニティー:コラボレーションのためのコミュニティーを実現する。
- 人材管理ヘルプデスク:Service Cloudプラットフォームを用いてセルフサービス型のヘルプデスクを実現する。
- アナリティックス:才能の評価や生産性指標の分析機能を提供する。
- モバイルアプリ:従業員を業務プロセスと結びつける。AppirioやDeloitte、Jobscience、Lumesseが当初からのパートナーとなっている。
Salesforce.comの顧客がSalesforce for HRを、既に自社に存在しているシステムを補完するものとして考えるかどうかはまだ分からない。
なお、Salesforce for HRでは、顧客の環境に合わせてある程度カスタマイズして実装することが想定されている。Salesforceプラットフォーム上にカスタムのモバイルアプリを構築し、必要な情報をHRシステムに連携させることができる。
このアプローチは、Salesforceがエンタープライズの分野でレガシーなSAPやOracleのシステムに対して、いかにフロントエンドであるかということと同じようである。「従業員は、従属的な立場ではなく顧客のような待遇を受けたいと考えている」とAmezaga氏は述べた。「従業員はエンゲージしていなければ、去ってしまうだろう」(Amezaga氏)
Salesforce for HRが興味深いものとなってくるのは、企業の幹部らが既にWorkdayに投資し、リテンションやオンボーディング、分析のアプリケーションを利用している場合である。従業員のエンゲージに関して、Salesforceのフロントエンドを必要としているかどうか、企業の幹部らは判断する必要が出てくるだろう。
結局、SalesforceとWorkdayの争いというのは大げさなようだが、考えさせられることではある。両社には、置き換えようとするレガシーなHRアプリケーションの分野が幅広くあるのだから。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。