3月3日に行われたヴイエムウェアの2015年度事業戦略説明会。注目されたのは、新社長として紹介されたJon T. Robertson氏のキャラクターだった。2007年に入社し、以来、三木泰雄社長(当時)の右腕となって同社の成長を牽引してきた人物である。2012年からVMware ASEANの社長に就任し、シンガポールで同地域の事業を統括。3年ぶりにヴイエムウェアに復帰した。
カナダの大学後、1990年に文部省のプログラムを通じて初来日。最初に暮らした鹿児島県の種子島で日本語を学んだ。日本滞在は通算20年以上、種子島の方言を交えた流暢な日本語で話し、記者からの質問には時間をかけて丁寧に答える。
自らを「日本の心と外資系マインドを持ったハイブリッド人材」と評するRobertson氏。クラウドのさらなる普及に向け、どのような戦略で市場を取っていくのか。話を聞いた。
日本企業はシステムの外部委託に抵抗がない
――国内のパブリッククラウドサービスの市場規模は拡大を続けている。ヴイエムウェアにとっては追い風だか、この状況をどのように見ているか。
ヴイエムウェアは、「One Cloud、Any Application、Any Device(1つのクラウドで、あらゆるアプリケーションを、あらゆるデバイスから利用できる)」環境の実現を戦略に掲げ、ハイブリッドクラウドソリューションを提供してきました。特に2014年11月に日本でリリースしたパブリッククラウドサービスの「VMware vCloud Air」は、多くの顧客に注目を頂いています。実際、われわれの予測よりも2倍以上の顧客に採用されています。
2012年ごろ、日本での主力製品はサーバ仮想化ソフトウェア「VMware vSphere」であり、クラウド導入を本格的に検討する企業は少数派でした。しかし、この数年でその状況は大きく変化しています。
vCloud Airの成功要因はブランド力だと考えています。トップ10にランクインしているクラウドサービスプロバイダーのプラットフォームは、ほとんどわれわれの製品です。クラウドに対する不安の1つとしてセキュリティが挙げられますが、「ヴイエムウェアのハイブリッドクラウドなら安心」だと判断して頂いている結果と受けとめています。
現在、われわれのパートナー企業のうち、約200社はデータセンターを持ち、顧客のシステムを管理、運用しています。そうしたパートナー企業にとってクラウドは、サービスの選択肢の1つなのです。
日本企業はメインフレームの時代からシステムをシステムインテグレーターに委託してきた経緯があり、自社のシステムをアウトソースすることに抵抗がありません。そういった観点から見れば、クラウドは新しいアウトソーシングモデルであり、受け入れられる土壌は十分に整っているのです。
変わりつつあるCIOの立場
――日本企業のクラウド導入は、米国企業と比較し遅れているとの指摘があった。それが変化していると。
意外なことですが、日本企業の変化を感じたのは、シンガポールに駐在していた時です。日本のシステムインテグレーターが東南アジアにデータセンターを建設したり、日本企業が東南アジアの現地企業を買収したりしていました。
シンガポール駐在の1年目は、ほんど日本語を話す機会がありませんでした。つまり、日本の顧客はいなかったのです。しかし、2年目から徐々に日本語でのミーティングが増え、3年目ではミーティングの約2割は日本語でした。
もう1つ、日本企業でもCIO(最高情報責任者)が経営に参加するようになったことも大きな要因です。今まで日本企業のCIOは「システム管理のトップ」という位置付けであり、経営に口出しをしませんでした。そもそもCIOがいない企業の方が多かったわけですが、その方向は大きく変化しています。
例えば、最近の大口契約は、半分がグローバル企業(世界各地に顧客を持つ企業)です。われわれとの契約内容も単なるソフトウェアライセンスの販売だけでなく、クラウド全体のアーキテクチャを設計し、それを世界中にロールアウトするモデルを支援するという案件が増えてきました。これはCIOが社内でリーダーシップを執りシステムを鳥瞰しているからだと考えています。
――2015年度事業戦略では「One Cloud」の実現を訴求した。その背景を教えてほしい。
One Cloudは、ハイブリッドクラウドの次のステップだと位置付けています。ハイブリッドクラウドは、複数のクラウドがある状態です。これではクラウドでもサイロ化が発生してしまい、われわれの創業目的――アプリケーションのサイロ化の解消――を達成できません。例えば、ユーザー企業の環境で特定のクラウドで運用しているアプリケーションがロックインされるのであれば、それはクラウドのメリットを享受しているとは言えないのです。
また(One Cloudを実現するための)「SDDC(Software-Defined Data Center)」を構成する仮想ストレージ「VMware Virtual Storage(VSAN)」やネットワーク仮想化製品である「VMware NSX」、さらに管理ツールといった必要なコンポーネントが揃ったことも理由の1つです。ユーザーは1つの管理ツール、1つのダッシュボードですべてのクラウドを管理できる環境を手に入れられるわけです。
――エンドユーザーコンピューティング(EUC)事業の強化も戦略として掲げている。日本での勝算はあるのか。
企業向けモバイルソリューションである「AirWatch」は、パートナーを通じて2014年10月にリリースしました。同分野はこれから成長すると考えています。なぜなら多くの日本企業はスマートフォンをビジネスで活用しており、セキュリティ管理に対する要件は、米国よりも厳しいからです。
実際、EUCビジネスの売り上げを国別で比較した場合、日本は世界平均の2倍ぐらい多いのです。今期に頂いた大きな案件の中にはEUC案件が3~4件あり、AirWatchにも関心をお持ちです。時期は明確に申し上げられませんが、AirWatchの導入事例も遠くない将来に紹介できるでしょう。ファーストユーザーの成功事例が紹介されれば、多くのユーザー企業に導入を検討して頂けると確信しています。