SAPが示すデジタル経済時代の企業--B2BからC2Bへ

末岡洋子

2015-05-08 07:00

 ドイツのSAPは5月5日、米フロリダ州オーランドで年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2015」を開催した。初日の基調講演で最高経営責任者(CEO)のBill McDermott氏は参加者に対し、デジタル化とシンプル化による次世代企業への変革を呼びかけた。キーワードは昨年から引き続き「Run Simple」だ。だが、今年はより具体的になった。

Run Simple=データ主導とシームレス

 今年のSAPPHIRE NOWには世界各国から2万人の来場者が集まり、約250社が出展するなど、インメモリデータベース「HANA」を軸に、変化に取り組むSAPへの関心の高さを示す結果となった。

SAPのCEO、Bill McDermott氏
SAPのCEO、Bill McDermott氏

 単独のCEOとなって2度目のステージを踏んだMcDermott氏は、2014年に打ち出した「Run Simple」を体現するかのように、ノーネクタイ姿で登場。2月に“SAPの歴史上最大の発表”として「S/4 HANA」をローンチしたばかりということもあり、やや地味な印象もある幕開けではあったが、HANAによるビジネスのシンプル化とデジタル化が必要な理由をSAPの戦略として語った。

 2020年にはインターネットにつながる端末が500億台に上るとも言われている。このような状況の中で、企業が求められているのはデジタル経済への対応だ。「世界中のすべての産業の、あらゆる規模の企業にとってデジタル化は避けて通れない」とMcDermott氏。

 その先にあるのは、「ビジネスtoビジネス(BtoB)ではなく、コンシューマーtoビジネス(CtoB)の市場だ」と、コンシューマーが支配する市場を予想してみせる。

 つまり、単に製品を売るのではなくサービスや価値、容易な消費が重要となり、製品についたセンサからのデータが新しいビジネスモデルの鍵を握る。「あらゆる企業にデータ主導の変革が求められている」という。

 「2014年のSAPPHIRE NOWではRun Simpleについて話した。今年はロードマップを示す」。具体的なロードマップは2日目以降の基調講演で出てくるが、同氏はCEOとして全体の方向性を示した。

 Run Simpleへのロードマップを、“データ主導”“シームレス”の2つのキーワードから説明。データ主導についてはまず、「データはあらゆる企業のビジネスの土台だ」とMcDermott氏。

98%のデータはダーク

 一方で、課題も多い。「企業が持つデータの98%がダーク(データ)だ。これは、デジタル問題、そしてデジタルデバイドのみならず“データデバイド”状態を引き起こしている」と指摘する。

 このデバイドを橋渡して、企業の活動根拠を変えていく必要があると続ける。データは人々に力を与えるものであり、「企業の核となる基盤をデジタル化し、核となるオペレーション全体をデジタル化する必要がある」という。

 シームレスとは、デジタルの境界をシームレスに移動することで、コンシューマーに容易な体験を提供したり、新しい販売方法を作り出すことだ。「さまざまなバリューチェーンを経由して継ぎ目なくビジネスを展開する必要がある」とMcDermott氏は述べた。

 シームレスとデータ主導を体現している例として、同社の顧客の1つ、スポーツアパレル企業であるUnder Armourを紹介した。10年前は評価額約2億ドルの非公開企業だったが、現在は時価総額が160億ドル以上に達する市場のリーダーとなった。

 Tシャツから靴まで、男性向け、女性向けと多様な製品を持ち、チャネルもさまざまなだ。同社はフィットネスアプリのMapMyFitnessやMyFitnessPalなどを買収も手掛けており、フィットネスコミュニティへの投資も進めている。

 以前からSAPの需要予測や販売予測などの技術を利用して経営を実践。データベースとしてHANAを採用し、構造化、非構造化データを含め、全データを運用している。

 「これがデジタルビジネス(企業)だ」とMcDermott氏。1台のデータベースに全てを集約するのはリスクだという声が聞こえてきそうだが「データ主導の新しいモデルを受け入れないほうがリスクだ」と言い切った。

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