何を守る? いくら払う?--先進国に学ぶ“サイバーセキュリティ保険”の勘所

鈴木恭子 2015年05月08日 07時30分

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 セキュリティの総合コンファレンス「RSA Conference」の“起源”は、1991年に開催されたインターネットセキュリティを考える暗号学者向けフォーラムだ。その影響からか、技術や標準規格、学術的な内容が多い。今回は25トラックで350のセッションが開催された。

 その中で今年から新たに加わったトラックが3つある。「C-Suite View」「Identity」「Securing the Ecosystem」だ。中でも企業のエグゼクティブを対象にした「C-Suite View」は、「セキュリティ対策を企業全体の経営課題だと自覚してもらうため」(RSA)としている。

 同トラックで語られたのは、セキュリティの観点を組み込んだ組織改編やコンプライアンス、費用対効果に対する考え方など「経営の観点から見たセキュリティ対策」だ。その中から本稿では、「サイバーセキュリティ保険」について取り上げたセッションを紹介しよう。

企業業績に与えるインパクトの規模が変化

 サイバーセキュリティ保険は“経営の保証”となるのか。万が一、攻撃を受けた場合でも、保険に加入していれば被害は最小限に食い止められるのか。どのような内容の保険にどのくらいのコストをかければよいのか――。

Larry Clinton氏
Internet Security Alliance プレジデント兼CEO Larry Clinton氏

 近年、米国のサイバーセキュリティ保険市場は急成長している。しかし、「どの商品を選ぶべきか」に頭を抱えている企業は少なくないという。Internet Security Allianceでプレジデント兼最高経営責任者(CEO)を務めるLarry Clinton氏は、「セキュリティ上の脅威は、外部からの攻撃だけではない。内部犯行の可能性も想定して対策を講じる必要がある。そのためには、どのデータにどれだけのコストをかけるのかを考えるべき」と指摘する。

 Clinton氏は、セキュリティ侵害が企業業績に与えるインパクトと、その規模が変化していると説明する。「特に最近のセキュリティ侵害の経済的インパクトは、既存の保険(の支払いと受給のバランス)を大きく変えている。過去のサイバーセキュリティ保険は(システム停止などの)ビジネスロスを保証するものだった。しかし、現在では情報資産の破壊やオンラインビジネス停止による損害補償、さらに情報漏えいに関する裁判の弁護士費用までを包含している」(Clinton氏)

 同氏は、サイバーセキュリティ保険がカバーする内容を、直接被害者(社)と間接被害者(社)に大別して説明した。直接的被害とは、セキュリティ侵害による直接的な損害、企業ブランドの失墜に伴うコスト、ビジネス中断による機会損失、ネットワーク保護と破壊データの修復などが挙げられる。間接被害としては個人情報漏えいなどに関する裁判費用やプライバシー侵害に対する対策費用などがある。

 Clinton氏は、企業がサイバーセキュリティ保険を選ぶ差異に考慮すべきポイントとして、「保険適用の範囲」「適用範囲とコストの関係(不要なオプションが含まれていないか)」「必要以上に複雑な保険商品になっていないか」「ビジネスサイズによる保険適用の例外がないか」「業種業態による例外規定がないか」を見るべきだと説明する。

 「例えば、絶対に避けるべきリスクと、ある程度は許容できるリスクは何なのか。どのように損失を測定するのか。IDの盗難は保険の適応範囲なのか。会社役員に対する損害賠償請求をカバーする『会社役員賠償責任保険(Directors and Officers Liability Insurance:D&O)』が必要かどうかも考慮しなければならない。大切なのは、保険すべてで(セキュリティ侵害を)カバーできると考えないことだ」(Clinton氏)

 ちなみに、日本においてサイバーセキュリティ保険は、あまり売れていないようだ。保険とリスクマネジメント関連サービスを提供するMarsh & McLennanの日本法人が2014年に行った調査によると、サイバーリスク保険を購入していない企業は78%。そのうち「今後12カ月以内に何らかのサイバーリスク保険を購入する予定がある」と回答したのは47%にとどまっている。

国内での情報セキュリティ保険市場の推移
国内での情報セキュリティ保険市場の推移。2011年以降は年率2%増前後で推移しているという(出典:「情報セキュリティ市場調査報告書」日本ネットワークセキュリティ協会)

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