モノ(製品)は変化している。われわれも変化しなければならない――。
そう語るのは製品ライフサイクル管理(PLM)ソフトウェアを手掛ける米PTCでプレジデント兼最高経営責任者(CEO)を務めるJames E. Heppelmann氏だ。同社は5月4~7日の4日間、米国マサチューセッツ州ボストンで、“モノのインターネット(Internet of Things:IoT)”に特化した自社コンファレンス「LiveWorx 2015」を開催。IoT分野への注力姿勢を改めて強調した。
LiveWorx 2015の会場となったHynes Convention Centerはボストンの中心地にある
PTCは2013年12月、IoT向けアプリケーション開発運用プラットフォームを提供する米ThingWorxを約1億1200万ドルで買収した。さらに2014年8月には、機械間通信(Machine to Machine:M2M)ソフトウェアを開発する米Axedaを1億7000万ドルで買収し、IoT分野での製品ポートフォリオ拡充を進めてきた。
今回のコンファレンスは、ThingWorxが主体となったものだ。昨年の同コンファレンスの参加者は350人程度だったが、今回は、世界30カ国から2300人が参加したという。
PLMソフトウェアとCADソフトウェアを主軸にしてきた同社だが、近年はIoTを中核に据え、PLMやサービスライフサイクル管理(SLM)ソフトウェア、アプリケーションライフサイクル管理(ALM)ソフトウェアを連携させる戦略を打ち出している。実際、昨年の年次コンファレンスでも「IoTの台頭で製造業のビジネスモデルは抜本的に変化する」と指摘した。
IoTでさまざまなデータが収集可能になり、ベンダーはリアルタイムで製品の利用状況を把握できるようになった。そのような状況においては、単に「モノ(製品)を売って利益を得る」モデルから「モノがもたらすサービスを継続的に提供する」モデルにシフトするというのが、同社の主張である。
PTC プレジデント兼CEO James E. Heppelmann氏
初日の基調講演に登壇したHeppelmann氏は、「IoTはデジタルとフィジカル(物理)を密接に結びつけるものだ。今までフィジカルの世界で発生していた事象が、簡単にデジタルの世界でデータ化される。製造業は、デジタルデータをもとに製品開発している。フィジカルとデジタルの境界線が取り払われ、情報をやり取りすることで、新たなリアリティが誕生する」と力説した。
Heppelmann氏は、IoTでメーカーと顧客の関係性は変化すると指摘する。「例えば、製品が故障したときを考えてほしい。過去、メーカーは顧客から故障の状況をヒアリングし、修理人を派遣していた。つまり、顧客からの報告でしか故障の状況を把握する手段がなかったのだ。こうした状況が製品(モノ)とデジタルを分断していたが、IoTでこの状況は一変する。どのように利用されているかのデータをリアルタイムで収集できるだけでなく、データ同士を相関分析することで、故障も予知できる」(同氏)
すでに製造業の現場では、IoTからのデータをリアルタイム分析し、その分析結果を設計にフィードバックして製品改良に役立てたり、保守を自動化したりする試みがなされている。実際、航空機や遠隔地の重機など、すぐに修理が難しい環境などでは、センサデータを相関分析し、故障の予兆や部品交換の時期などを割り出している。こうした取り組みで企業は交換部品の在庫量を最適化したり、リコールを回避したりすることが可能になる。
IoTで重要なのは、センサから収集される膨大なデータを独自の要件に基づいて素早く分析、可視化できるアプリケーションと、それを開発するプラットフォームだ。Heppelmann氏は、ThingWorx買収後18カ月間で約500億ドルを投資し、Axeda製品とPTCの製品設計ソフトウェアである「Creo」などと統合を進めていることを明らかにした。
PTCは「IoTではインフラ整備に労力とコストをかけるのではなく、アプリケーションの開発にリソースを集中させ、迅速に開発、配布、改善を繰り返す必要がある」と力説する