データを活用した経営の必要性が論じられて久しい。情報技術とその活用形態の進化は加速し、企業にとってのデータ活用のコンセプトは、ビッグデータ活用からInternet of Things(IoT)やInternet of Everything(IoE)へとさらに広範囲に拡大している。
今企業に問われていることは、あらゆる情報技術とデータの利用による市場機会の発見と競争力の獲得や維持だが、すべての企業が経営や現場での意思決定にデータを活用できているわけではないのも現状だ。
なぜ情報技術とデータを経営に生かすことができないのか、もっと経営に生かすにはどうするべきか――本連載では、そのような思いを抱いている企業の経営層とITリーダーに対して、シグマクシスの各領域のプロフェッショナルがさまざまな企業の変革支援の現場から得た知見を元に、データを競争力につなげるための要点を提言する。
いつまで情シス部門は「守り」なのか
技術の進展が加速するのに応じて、情報システム部門は「守り」ではなく「攻め」の姿勢が必要だ、と言われるようになっている。これまでは、基幹系システムの構築、運用や保守業務が主であった情報システム部門。
システムをひとたび導入、構築した後は、それらのインフラストラクチャ、アプリケーションの保守や管理を担い、データにおいては各種マスタ管理やトランザクション管理、分析用データの整備と管理に従事してきた。
基幹システムは企業活動の生命線であり、止まれば膨大な損失が発生する。そのようなミッションクリティカルなシステムを構築し、日々緊張感を持って運用するという「守り」の役割は企業において今後も失われることはなく、ますます難易度は増していくだろう。では、なぜそこに「攻めの姿勢」が求められているのか。
消費者側の変化に目を向けると、そこにはさまざまな「ニューノーマル」が存在する。スマートフォン普及以降の「消費者のインターネット利用はモバイルが中心」という新しい常識、より強いパーミッションとつながりを許してこそ利用されるモバイルアプリ、各種アドテクノロジの普及とともに消費者のあらゆる接点に入り込むネット広告。そして、有史以来、最大の情報爆発時代を迎えると同時に、ついに人間の日常生活に入り込んできたAI(人工知能)の技術。
これら情報技術の変化とそれらの利用可能性の例は枚挙にいとまがないが、企業の視点で少なくとも言えるのは、これまでIT/ICTと総称されていた世界がIoT/IoEへと変化したことだ。
競争優位性に敏感なのは業務部門
この流れにおいて、情報技術とそこを流通するデータの向こうに潜むビジネス機会と、それらを活用して競争優位性を高められる可能性に対してより敏感なのは、明らかに情報システム部門よりも消費者側に近い業務部門になってきている、ということだろう。
マーケティングを専門とする筆者の目から見ても、企業のマーケティング活動に容易に情報技術を採用できるようになっている。ウェブサイトやモバイルサイト、モバイルアプリなど顧客接点で利用するアプリケーション、顧客とのやりとりの全体図を計画、自動化する基盤向けアプリケーションなどは、パッケージ化した上でクラウドで提供されることが一般的になっている。
自社開発の必要性が減ったことで、マーケティング業務におけるITの採用と運用に、社内の情報システム部門の関与の必然性が下がってきているのだ。
テクノロジは開発するものから完成されたシステムとして導入するものへの傾向が強まり、その採用にあたっての検討は、業務部門とテクノロジ提供者だけで事足りるといっても過言ではない。
ある意味、ITを資産としてではなく経費として使うという選択肢が増えたことで、事業にとっての情報技術の扱いが変わりつつあるのだ。
この流れの中で、「事業価値を上げる業務システムは自分たちの手で」「基幹システム系の話なら情報システム部門へ」という構図がいつの間にか業務部門側にでき上がり、結果として「攻め」の業務部門に対して「守り」の情報システム部門という役割分担で定着してしまった企業も少なくないのではないか。