「Becoming Steve Jobs」ブックレビュー:アップルの天才的リーダー、その真の姿

Colin Barker (ZDNet UK) 翻訳校正: 沙倉芽生 2015年05月22日 06時00分

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 Steve Jobs氏は、コンピュータ業界において最も人を引きつけ、議論の的となる人物の1人だ。この意見に納得できないのであれば、彼について書かれた伝記の数を数えてみると良い。最低でも十数冊はあることだろう。ほかにも、リーダーシップの秘訣や、彼の「ヒッピーキャピタリスト」哲学に関する手引書など、Jobs氏にまつわる書籍は数多い。Steve Jobs氏は単なる1人の人間というよりも、産業そのものだった。そしてそれは彼の死後も変わらない。


Becoming Steve Jobs: The Evolution of a Reckless Upstart into a Visionary Leader ● 著者:Brent Schlender ・ Rick Tetzeli ● 出版社:Crown Business ● 464ページ ● ISBN 9780385347402 ● 30ドル

 Jobs氏についてさらに知りたい場合、どこから始めればよいのだろうか。彼について書かれた最新の書籍「Becoming Steve Jobs: The Evolution of a Reckless Upstart into a Visionary Leader」(「Steve Jobsであるということ:無鉄砲な成り上がり者からビジョナリーリーダーへ」の意)こそ最適だと私は考えている。

 Brent Schlender氏とRick Tetzeli氏の共著によるこの書籍が出版される以前は、Jobs氏公認の下でWalter Isaacson氏が2011年に執筆した「スティーブ・ジョブズ I・II」が正統な伝記とされていた。同書は、Jobs氏の人生の取り上げ方が議論となったことで注目を集めたが、実際のところ議論になったという事実以外、特出することは何もない。同書に対する個人的な感想は、読む価値はあるが結構ドライに書かれているというものだ。

 一方、Schlender氏とTetzeli氏の伝記はもっと面白く書かれている。その理由はいくつかあるが、まずその1つは、過去25年間に渡ってSchlender氏はThe Wall Street JournalとFortuneに、Tetzel氏はテクノロジ、ビジネス、デザインを取り扱った雑誌Fast Companyに勤務してきた人物であるということだ。Schlender氏はその25年の間、幾度となくJobs氏にインタビューしている。Jobs氏がAppleを去ってNeXTを立ち上げた空白の時期や、NeXT設立後もインタビューを行っているのだ。

 Schlender氏が4月初めにコンピュータ歴史博物館で開催されたイベントで話していたのだが、同氏は「Steve Jobs氏へのインタビュー集」として、カセットテープ50本分のコレクションを作ったという。これが宝の山となり、「Jobs氏とはよく電話でさくっと話すこともあった」というのだ。Schlender氏はまた、「どれだけ頻繁に長話したかもわからないほどだ」と述べている。

 Schlender氏が初めてJobs氏に会ったのは、Jobs氏がAppleを去りNeXTを設立して間もない1980年代後半のことだった。2人は時間をかけてお互いのことをよく知るようになったが、インタビューにたどり着くまでにSchlender氏は自身の存在をJobs氏に認めてもらう必要があった。当時Schlender氏はThe Wall Street Journalに務めていたが、Jobs氏はビットとバイトの違いもわからない金融ジャーナリストにテクノロジの話をするほど暇ではないと考えていたからだ。

 Schlender氏はJobs氏のテストに合格し、インタビューが行われた。その後何度もインタビューは実施され、今回紹介する書籍の執筆にまで至ったのだ。

Jobs氏の真実とは?

 「Becoming Steve Jobs」は、Jobs氏に関する真実を明かそうとしている書籍だ。

 2人の著者は、「Jobs氏とMike Markkula氏およびMike Scott氏との口論や、Jobs氏が彼の意見こそ真実だと堂々と断言したこと、また、長い間Jobs氏がAppleの成功はメディアのおかげでもあると認めなかったことなどが原因で、彼は非常に自己中心的で他人の言うことに耳を傾けない人物だと思われるようになった。しかしそれは根本的に間違っており、彼が若くて最も気が強く高圧的だった時期でもそんなことはなかった」と指摘。「Jobs氏はAppleで自分より年上の人に助言を求めていたし、社外でも頼りになる人を探していた」という。

 これほどJobs氏をうまく表現した言葉はないと思う。つまり、彼は多くの人に誤解されていたのだ。Jobs氏が非常に複雑な人間であることは間違いないが、彼の近くにいる人も含め、皆彼を誤解していた。そして、非常に複雑な人物というものは、優れた天才でもあると思うのだがどうだろうか。

 私にとってSteve Jobs氏は、1984年のスーパーボウル決勝戦のハーフタイムに米国のテレビで流れた有名なコマーシャル「1984年」そのものだ。今でも私がそのコマーシャルをよく覚えているのは、単に私がアメリカンフットボールのファンだったからではない。当時コンピュータ雑誌に勤務していた私は、Appleが米国最大のスポーツイベントに合わせて何か製品発表をすることを知っていたからだ。

 そのコマーシャルでは、カラフルなスポーツウェアを着た若い女性アスリートが、ぎっしり並んだモノクロロボット風の群衆の間を走り抜け、George Orwellの小説「1984年」に登場する支配者「ビッグブラザー」風の男がスピーチしている白黒のスクリーンに向かって大きなハンマーを投げつける。そこで「Appleが発表するMacintoshは、1984年が小説『1984年』のようにならないことを証明するものだ」というナレーションが流れる。

 金に糸目はつけなかった。このコマーシャルの監督は、のちに「エイリアン」「ブレードランナー」「テルマ&ルイーズ」「グラディエーター」といった映画を手がけることになるRidley Scott氏。同氏は映画監督としてデビューする以前、広告業界で働いていたのだ。

 この忘れることのできない超大作は、テレビで1度しか流れていない。しかし、この1分間こそJobs氏である。多くの人の心を揺さぶり、創造的な才能にあふれ、本当に見事な出来だった。まさにJobs氏そのものだ。

 Bill Gates氏は、Jobs氏のことを「彼は別世界の人間だ」と表現している。Gates氏もJobs氏を認めていたということだが、2人の関係がよくわかる言葉でもある。

 Schlender氏とTetzeli氏の書籍から、Gates氏のJobs氏に対するコメントをもう1つ紹介しよう。「Jobs氏のリハーサルの完璧さは驚くべきものだった。ステージに立つ際、彼のスタッフが何かミスを起こそうものなら、彼はスタッフに対して非常に厳しくあたった。大舞台に対して少し緊張しているようでもあったが、ステージに立つと素晴らしいパフォーマンスを披露するのだ」

 その姿こそ、Jobs氏を見たことのある幸運な人が覚えている彼の姿だ。Jobs氏にはカリスマ性があった。Jobs氏と同じくらい有名で成功した人物であっても、彼ほどのカリスマ性を持つ者はいない。時に不快な態度を取ることもあったJobs氏だが、彼のことを嫌いになるのは、不可能ではないにしろ難しいことだった。

 Steve Jobs氏について、多くの人が同意するであろうことがひとつある。彼の早すぎる死によって、世界は以前よりつまらなくなってしまったということだ。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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