前回は、業務部門が事業の価値向上のためにパッケージやSaaSを積極的に採用し始めていること、その効果を最大化するため、データ活用により競争力を生み出すための業務部門と情報システム部門の新たな役割分担や協業が必要であること、その成否の鍵となるのは「攻めの協業」「攻めのデータ活用」「攻めの組織」であることを述べた。今回は、攻めの協業について紐解く。
「顧客の個人情報」にみる情シスと業務部門の攻防
私がここでいう攻めの協業とは、情シス部門と業務部門が「売り上げ」と「利益」両方の拡大に向けて、より密接に協業することである。
当たり前のことのように聞こえるかもしれないが、そもそも事業の成長をミッションとする業務部門と、予算を預かってITを運用する情シスでは、そもそも立ち位置が違う。
その違いを超えて企業価値を最大化するには、という視点で協業するということだ。具体的には、情シスが従来の守備範囲を超えて、業務部門や経営全体に対してコミュニケーションを図り、各種の技術要件が情シスへ要望や要求として個別バラバラに落ちてくる(あるいは降りかかってくる)前に、検討フェーズからそのプロセスに関与して、テクノロジ採用の効果を最大化することだ。
クラウドやパッケージアプリケーションなどのコモディティ化したテクノロジを採用して競争力を向上させるためには、データの活用が肝要であることは第1回目でも言及した。
ここで、ECによく見られるケースを用いて、「守りの情シス」と「攻めの業務部門」の間で今何が起きているかを見てみよう。
ECを扱う企業において挫折が多いのは、「顧客の個人情報の活用」に絡む領域である。成熟したダイレクトマーケティングのプロセスを回している企業であれば、サイト訪問者を「どの世帯に属する誰なのか」「その世帯構成はどうなっているか」という「顧客」として捉えようとする。
しかし当然ながら、ウェブ分析のアプリケーションを標準的な形で導入しただけでは、一人ひとりの訪問者を顧客として識別することはできない。
ウェブ分析アプリケーション側に、自社の顧客マスタも世帯マスタも存在しないからだ。そこで、利用者である業務部門は、「ウェブ分析アプリケーションをカスタマイズしよう」と考え、大抵の場合、ログインIDでの識別など個人識別可能なデータがいらない領域でのカスタマイズから着手する。
そして、ウェブビーコンの製品ならばJavaScriptタグをカスタマイズをし、自社サイトのHTMLソースコードやモバイルアプリのSDKに組み込み、データをどんどん収集し……と、基幹システムから遠いクラウドの彼方にデータを蓄積し続けていく。