読者諸氏は、カフェでノートPCを開き、せっせとExcelで資料を作成している人を見たことがあるのではないだろうか。報告のためであったり、整理のためであったり事情はさまざまだろうが、この時間、営業担当が営業活動という本業から離れているのは事実だ。
しかし、iPadでExcelを細かく作成するのは難しい。また、iPad発売当初はExcelをきちんと動かせるアプリケーションも少なかったため、結果的に営業担当は本業に費やす時間が増えたのだ。
当時、自社をモルモット代わりにしていたソフトバンクテレコム(現:ソフトバンクモバイル)では、全社員にiPadを貸与した結果、営業担当が本業に集中することができ、なんと訪問件数が3倍に伸びたと報告している。
iPadだけでは、仕事に使えない
至極当たり前の話だが、iPadを購入し、社員に貸与すれば解決するというものではない。某製薬会社では、2000台以上のiPad導入を急ぎすぎ、またそのまま配布したため、結果的に顧客である医師たちから「◯◯(製薬会社名)は、なんでもiPadでやろうとして面倒くさい」と不評を買うことになった。
iPadは、今までのPCの機能を大きく削り、スマートフォンよりも大きい画面で操作できるようにしたものだ。営業で利用するケースでは、1対1など少人数向けプレゼンテーションに向いている。そのような用途のためにどのアプリケーションを利用するのか、あるいはクラウドサービスを必要とするのか――という業務設計が必要になるのだ。それらを端折って導入すると、結果的に後から追加でコストが発生し、さらに導入から活用できるようになるまでの時間が伸びてしまうのだ。
無料のサービスはダメ、は本当か
2010年のiPad発売当初から、有償、無償のアプリケーションがどんどん出てきた。その無償サービスの中で一躍有名になったのが、EvernoteとDropboxだ。いずれも、多くの容量を使用すると有料になるサービスもあるが、無料のままでも十分に使えるサービスだ。しかし、多くの企業の情報システム担当は「ノー」を出した。無料サービスは、責任元がわからないから、というのが主な理由だが、それは単純に検証不足、あるいは検証をしていなかったからだけではないだろうか。
現在は、Evernoteは「Evernote Business」、Dropboxは「ビジネス向けDropbox」というように、法人向けサービスが出ており、すでに活用する企業も増えている。イシンでも両方を活用しているが、非常に便利だ。しかし、当初の「無料のサービスはダメ」という方針のまま、現在もこれらのサービスからのファイル共有を禁止している企業があることは残念でならない。下手にオンプレミスにするより、コスト面だけでなく、安全面も高いのが実情だからだ。
Apple製品は、iPad発表を境に一般消費者市場から、一気に法人への導入が加速したのは紛れもない事実だ。そして、それにより多くの情報システム担当者が悲鳴をあげているという話も聞く。では、iPadはなぜ企業で使われるようになったのか。次回はその辺りをご紹介していきたい。