小規模企業のIT投資意欲が大幅に向上--ノークリサーチ

NO BUDGET

2015-06-02 08:37

 ノークリサーチは6月1日、中堅・中小市場における2015年春のIT投資に関する定点観測調査の結果を発表した。

IT投資DI値は「5.3」、経常利益DI値は「8.3」と共に改善するも、楽観視はできない状況

 定点調査では、今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかを尋ね、「増える」と「減る」の差によって算出したIT投資意欲指数を「IT投資DI」として定義している。今後のIT投資意向を示す先行指数で、IT投資の実績値ではなく、投資意向を反映した「見込み値」。

 また、前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を聞き、「増えた」と「減った」の差によって算出した経常利益増減指数を「経常利益DI」として定義する(こちらは前四半期と比較した「実績値」)。

 下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業全体におけるIT投資DIと経常利益DIの変化をプロットしたもの。4月時点のDI値は1月時点と比較して、IT投資DIが3.1から5.3へ2.2ポイントの改善、経常利益DIが2.8から8.3へと5.5ポイントの改善となった。


 内閣府が5月20日に発表した2015年1~3月期GDP速報値でも、実質GDPは前期比0.6%、民間最終消費支出が0.4%、民間企業設備投資が0.4%といずれもプラスとなっている。

 ただし、民間最終消費支出については前四半期と伸び率が変わらず、今後は増税や円安に起因する物価上昇に賃金上昇が追随できないことによる停滞も懸念される。

 民間企業設備投資についても、内閣府ではソフトウェアなどへの支出項目についてはGDP値の減少要因と見ており、設備投資の伸びがそのままIT投資に直結しているわけではない点に注意する必要がある。

 また、今回の内閣府速報値では民間在庫品増加がGDP値の増加に寄与しているが、第1次速報では仕掛在庫品の項目が推計値となっているため、6月初旬の第2次速報ではGDP値が若干変更される可能性もある。

 以下のグラフに示す動きは大枠ではこうしたGDP推移と符合しているが、上記に述べたように必ずしも「全ての企業の業績が改善し、IT投資も上向いていく」とは限らない点に注意する必要がある。

年商5億円未満の小規模企業においては大幅な改善、IT投資DI値もプラスに転換

 以下のグラフは経常利益DIおよびIT投資DIの変化を年商別にプロットした結果である。

 特に留意すべきなのは、年商5億円未満の小規模企業においてIT投資DI値が-14.0から1.5へ大幅に改善してプラス値となり、経常利益DI値についても現時点では-4.0と依然としてマイナス値であるものの今後の見込み値(調査対象企業に今後の経常利益予測を尋ねた結果)としては4.0のプラス値となっている点だ。

 大企業に近い傾向を示す年商300億円以上~500億円未満の中堅上位企業に比べると依然として厳しい状況ではあるが、裾野の広い小規模企業においても改善の兆しが少しずつ見え始めているものと考えられる。



「経常利益DI:増加、IT投資DI:減少」の区分にこそ、有望な顧客が存在する可能性がある

 前回調査(2015年1月実施)と今回調査(2015年4月実施)を比べた際、経常利益DI値の増減を横軸、IT投資DIの増減を縦軸にとり、両者の結果を年商区分別にプロットした結果が以下のグラフ。2つのDI値の増減によって、各年商帯は以下の4つのグループのいずれかに分類できる。

・[経常利益DI値:増加、IT投資DI値:増加]
年商5億円未満
年商300億円以上~500億円未満

・[経常利益DI値:増加、IT投資DI値:減少]
年商50億円以上~100億円未満

・[経常利益DI値:減少、IT投資DI値:増加]
該当なし

・[経常利益DI値:減少、IT投資DI値:減少]
年商5億円以上~50億円未満
年商100億円以上~300億未満


 ここで留意すべきは年商50億円以上~100億円未満の中堅下位企業。経常利益DI値は改善している(=IT投資に必要な原資を以前よりも確保しやすくなっている)にも関わらず、大幅な下落ではないもののIT投資DI値は前回調査時点と比べ減少している。

 この傾向を詳しく集計・分析すると、経常利益DI値が改善した企業の中でIT投資を削減しようとしている割合が高いわけではなく、「経常利益は改善したが、IT投資には踏み出していない」という企業が多いことが一因であることがわかる。したがって、ITソリューションを提供するベンダーや販社/SIerとしては、そのような企業を選別することが重要となってくる。

 また同年商帯において経常利益DI値が改善した企業に対し、経常利益がプラスとなった要因を尋ねた結果では 「商品/サービスの販売量が増えている」「商品/サービスの単価が上がっている」といった事由に続いて、「業態の拡大や転換が成功している」が多く挙げられている。つまり、業態の拡大や転換に取り組もうとする企業は将来的に経常利益の改善を実現できる可能性があり、さらにその先のIT投資増も期待できる。

同じ「IT投資DI値増加」でも、流通業(運輸業)と小売業では背景となる事由が大きく異なる

 有望セグメントを探索する際には「業種」の観点も欠かせない(さらに「地域/所在地」「企業のIT管理運用体制」「拠点数」なども重要な要素となってくる)。IT投資DIの推移を業種別にプロットしたのが下のグラフ。


 例えば、「流通業(運輸業)」と「小売業」においてIT投資DI値が大きく改善していることがわかる。だが、その背景となる要因は必ずしも同じではなく、例えば流通業は前回調査時点と比べ経常利益DI値が大きく減少している一方、小売業の経常利益DI値は前回調査時点から大きく改善している。

 流通業に対してIT投資を増やす理由を尋ねた結果では「競合他社の取り組みに追随する必要がある」が最も多く挙げられており、「販路の創出や拡大にITが必要である」「従業員の減少をITでカバーする必要がある」などといった項目も見られる。

 つまり、経常利益が減少する厳しい状況の中でも自社の競争力を維持するために必要なIT活用には取り組むという姿勢がうかがえる。

 逆に小売業においては「売り上げが向上して、IT投資費用が捻出できた」が最も多く挙げられ、「競合他社の取り組みに追随する必要がある」「スマートフォンやタブレットを前提とした顧客接点での構築が必要」といった項目が見られる。

 経常利益が増加している状況を受けて、スマートフォンやタブレットを活用することなどによって競合他社に対する優位性を確保したいと考えている状況がうかがえる。

 このように「IT投資DIの増加」という数値的な変化は同じでも、その背景にある要因は業種によっても大きく異なっている。2015年はアベノミクスの真価が試される時期でもあり、中堅・中小企業を取り巻く経済環境も四半期単位で目まぐるしく変わる可能性がある。

 そうした状況を踏まえ、「近い将来の有望セグメントはどこなのか?」を常に見つめる一歩先を行く戦略立案が重要になっていくと考えられる。

 本調査は、年商500億円未満の国内民間企業を対象として年4回(4月、7月、10月、1月)実施する定点観測調査の一環として2015年4月に行われたもので、詳細は同社が発刊する「ノークリサーチQuarterly Report 2015年春版」に掲載される。

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