同氏は携帯電話の画面上に表示された結果にざっと目を通した。心配するような疾病のリスクはないし、肉体的な形質で驚くような特徴もない。すべての情報は退屈であり、まったく平凡な結果であった。
同氏は祖先の情報のセクションまでスクロールした。母方のDNAは期待通り欧州型だった。しかし父方のDNAは南アジアが起源となっていた。なかなか興味深い結果だ。Lane氏は、父方の家系のどこかに他の地域に出自を持つ、同氏が聞かされていない祖先がいるのだと考えた。
「私はそこで手が止まり、『少し奇妙だな』と感じた。父は2010年に死んでいたため、本人に尋ねることはできなかった。このため叔母、つまり父の姉妹に尋ねてみた。この時私は何の疑いも持っていなかったため『これは興味深い事実じゃないか?』と考えながら、『われわれの家系にインド出身の人物がいるかどうか知っていますか?』と尋ねてみた」(Lane氏)
「すると叔母は私に『あなたの出自は聞かされています。何を疑問に思っているのか分かっているので、私が知っていることをすべてお話ししましょう』と答えたのだった」(Lane氏)
Lane氏の叔母は、同氏の生物学上の父親が、母親が結婚していた人物、すなわち同氏がずっと父親だと信じていた人物なのか、他の人物、実のところインド出身の人物であったのかどうか、同氏の両親も分かっていなかったのだという事実を告げた。23andMeは30年以上にわたって答えが出ていなかった、そしてLanes氏が疑問にも思わなかった疑問に対して明確な答えを出したのだ。
99ドルでゲノムの秘密が明らかに
人類の複雑な設計図すべては、たった4種類の塩基という化学物質の組み合わせで書き記せる。アデニンとチミン、シトシン、グアニンという名で呼ばれるこれらの塩基は、それぞれの頭文字を取ってAとT、C、Gというアルファベット1文字で書き表され、AとT、そしてCとGがそれぞれ対を成すように結合する。あらゆる人のゲノム中には、30億の塩基対が含まれており、それらの対が並ぶ順序によって、個々の人物を構成する設計図ができあがるのだ。これら塩基は、その並び方によって脳や手足、肌、目などをヒトとしてあるべき位置にとどめながら、マリリン・モンローやアルベルト・アインシュタイン、あなたという個人、私という個人を唯一無二の存在にしているわけだ。
人間のすべての細胞1つずつに格納されているこれらの塩基配列を調べれば、研究者はその人物の出自のほか、髪の色から乳がんの罹患確率、苦みの感じ方などを調べることができる。
ゲノム配列のシーケンスマップを作成するコストは1万ドルに達し、ほとんどの人や組織にとって出せる金額ではないが、ジェノタイピングと呼ばれるずっと安価な代替手法を用いたサービスが23andMeやPersonalisといった企業から提供されている。
人間のゲノムは30億の塩基対から構成されており、そのうちのわずか数百万対が人と人との違いを生み出していると考えられている。そして、ヒトゲノム計画が作り出したゲノムマップによって、個人の差を生み出しているのがどの塩基対なのかを把握できるようになった結果、企業は比較的安価にヒトゲノム内の特定部分のシーケンスマップを作成できるようになったのだ。
23andMeは、100ドル未満で複数の薬剤に対する反応性のほか、数十種類に及ぶ生物学的マーカーの部分的側面を調べてくれる。
しかし、それは部分的側面にすぎない。