同社のウェブページには「23andMeはあなたの遺伝子情報を提供しますが、あなたの遺伝子すべてのシーケンスマップを提供するわけではないし、疾病の予測や診断をするわけでもありません」と記されている。
すべてのシーケンスマップを作成するわけではないため、一部の情報は欠落することになる。例として、乳がんのリスクが挙げられる。乳がんの発症リスクを高める遺伝子変異は数多く知られているが、23andMeはそのうちの一部しか検査していない。
また同社は、遺伝子情報の「解釈自体の難しさ」を挙げ、検査に限界がある点についても強調している。このため、同社のウェブページには「われわれは遺伝的関連に関する最新の情報を常にレビューするとともに、現在の科学的知識という文脈に基づいてあなたの遺伝子型情報を提供しています」と追記されている。つまり、あなたが何らかの病気を抱えているか、あるいは将来的に何らかの病気にかかるか、さらにはそういった確率が平均よりも高いか低いかについては分からないのだ。
23andMeも、あなたの遺伝子があなた自身の運命を握っているわけではないという点を指摘している。生活習慣や環境が将来の健康を決める大きな要素なのだ。DNA情報の検査だけでは世界の半分しか見たことにならない。遺伝子はそれだけで健康を左右するというものではなく、どのような食生活を送り、どういった環境で生活するかというわれわれ個人の選択も未来の健康に大きな影響を与えるのだ。例えば、遺伝子レベルで大腸がんのリスクが平均よりも低かったとしても、大量のアルコールを飲み、大量の加工赤身肉を食べていると、リスクが平均よりも低いことなど何の意味もなくなるはずだ。
それでも米食品医薬品局(FDA)は2013年に、23andMeが米国で提供しているテストの「健康」に関する情報が医療の要件を満たしているとして、サービスの差し止めを命じた。この命令が出されたのは、同テストには「疾病やその他の健康状態の診断、あるいは疾病の治療、緩和、処置、予防」という側面があると判断できるにもかかわらず、必要となる認可を受けていないという理由だ。またFDAは、特定の疾病マーカーに対する擬陽性や偽陰性によって悲惨な結果が生み出される可能性もあると警告している。
個人の遺伝子型情報検査サービスには他の懸念もある。遺伝子型検査を受けなければ、現在のところあなたの遺伝子はあなたの細胞中の細胞核にしか存在していない。しかし、いったん遺伝子型検査サービスを受けてしまうと、あなたの遺伝子情報はあなたの細胞を送った企業の所有物にもなってしまうのだ。
こうなると、あなただけが統制できるものではなくなり、このサービスのプロバイダーがあなたの遺伝子情報を共有する相手を決定できるようになる。23andMeをはじめとする企業は、法執行機関などからの適切な要求があれば、遺伝子情報を引き渡さなければならない。つまり、犯罪捜査のためであれば拒絶できなくなるというわけだ。しかし、米国家安全保障局(NSA)や海外の情報組織が令状無しに大衆を監視しているという状況を考えた場合、そう簡単には安心できないだろう。