同社のプライバシーについての声明では、「情報は匿名化したうえで集積し、第三者と共有する可能性があります。なお、匿名化したうえで集積した情報とは、あなたの名前と連絡先を除去したうえで、他人の情報とともにまとめたものであるため、あなた個人を特定できるわけではありません」と述べられている。ただ、こういったサービスによって遺伝子すべてのシーケンスマップが作成されるようになった未来では、この声明の対応だけで不十分なのは明らかだ。世界で1人しか持っていない固有情報を匿名化することなど本当にできるのだろうか?
23andMeには独自の研究部門が設置されており、顧客はその部門を通じて、医療関連の研究のためにゲノム解析を利用している組織と自らのデータを共有し、研究に協力できるようになっている。つまり、顧客は自らの遺伝子データとともに生活環境などの情報を提供することで、例えば同社が現在Pfizerと協力して研究を進めている炎症性大腸炎(IBD)の遺伝学的関係の調査に貢献できるわけだ。
さらに23andMeは、このようなかたちで調査に貢献する際のリスクを強調しており、情報漏えいによって遺伝子情報が公開され、個人情報と突き合わされるといった事態にも言及している(ただ、公的な取り組みへの貢献であろうと商業的な取り組みへの貢献であろうと、そのリスクは同じだ)。
23andMeのプライバシーに関する声明には、「このような集積データから個人のデータを特定するのは極めて難しいと考えられますが、あなたの遺伝子データの一部を入手したサードパーティーがそのデータと公開されているデータを照合すれば、個人情報の他の部分を類推していくことは不可能ではありません。23andMeはあなたのデータが100%安全だとは保証できませんが、厳格なポリシーと手順に従って、データ漏えいの可能性を最小限に抑えていきます」と記されている。
とは言うものの、コンシューマーが実際に研究に貢献することで、自らの利益を追い求めようとすれば、できる限り多くのデータを提供するしかない(遺伝子と環境の相互作用は疾病の発症に大きな役割を果たしているのだ)。例えば、誰かが自らの生活環境データと遺伝子データを提供した結果、希少がんのリスクを増大させる遺伝子マーカーや環境マーカーが洗い出せ、その後、そういった疾病の発症を抑止する効果的な手段が見つかったと考えてほしい。このような場合、提供されたデータが完全に匿名化されていると、本人を特定できず、その人の生命を救えるかもしれない治療ができないということになる。
個人の遺伝子データの共有に驚くほどのメリットがあるのはもちろんであり、そのメリットは個人だけにとどまらない。より多くの遺伝子情報を研究者のデータベースに追加することで、分析精度を向上させるとともに、研究者は特定の疾病が特定の人々に影響を与える理由を解明し、より良い治療方法を考え出していけるようになる。新しい、より効果的な薬剤も開発でき、遺伝型と環境の相互作用についても詳しく解明できるようになる。
われわれのデータを可能な限り共有すれば、われわれ個人だけでなく、人類すべてにメリットがもたらされる。しかしそれと同時に、データ漏えい時におけるリスクも高まるのだ。