佐賀県教育委員会は2014年度から、全県立高校で入学時にWindowsタブレット端末の購入を義務付け、1人1台PC環境での授業を行っている。2015年4月入学の1年生も、教育委員会が指定する仕様(Windows 8.1 Proを搭載するキーボード着脱式のPC)の端末を購入し、これで、全県立高校の1~2学年の生徒約1万4000人が、タブレット端末を持つ体制になった。
佐賀県では、生徒のタブレット端末で使う教材として、教科書会社からデジタル教科書を購入し、生徒に配布している。初年度は、教科書会社のサーバからデジタル教科書をダウンロードする際に不具合が発生するなどのトラブルがあった。また、年度末にデジタル教科書をアンインストールする運用が非難された。佐賀県 教育委員会 副委員長の福田孝義氏に、2015年度のデジタル教科書の運用方針について、話を聞いた。
--2014年度に実施した生徒のタブレット端末へのデジタル教科書の配布と回収は、どのような運用だったのでしょうか。
佐賀県 教育委員会 副委員長 福田孝義氏
一部報道で、「2014年度末に、佐賀県は生徒のPCから教科書をアンインストールさせた」とする情報が出ていました。この報道では、生徒のタブレット端末で使う“デジタル教科書”というものに誤解があったようです。
まず、高校の授業は、文部科学省の検定を受けた「検定教科書」に沿って行われてなければ正規の課程を修了したと認められません。検定教科書はデジタル化されていませんから、タブレット端末を持ち込む授業であっても、紙の検定教科書を使います。
2014年度に、生徒のタブレット端末に配布した“デジタル教科書”とは、教員が授業の理解度を高めるために使う補助教材です。
これまでは、教員が作成した資料や、授業に関係する書籍の一部などを、補助教材として紙に印刷して生徒に配布していました。書籍や肖像権のある画像であっても、紙での配布であれば著作権法の特例により、授業で配布することが認められています。しかし、タブレット端末へデジタルデータで配布する場合は著作権法の特例対象外になる。教員が著作権を気にせずに自由に使える補助教材が必要だということで、教育委員会が、各学校が希望するデジタル教科書、正確には教科書ではなく“デジタル教材”を教科書会社から購入し、教員に提供しました。
教科書会社との契約により、デジタル教材のコンテンツを教員が生徒に配る際には、生徒の人数分のライセンスが必要になります。教育委員会では、各教員からどの教材を何人の生徒に配りたいのかをヒアリングして、必要分のライセンスを教員に渡しました。
デジタル教材のダウンロード配布は特例の運用だった
各社のデジタル教材はASPサービスで提供されており、教科書会社のサーバにアクセスして、ライセンス認証のあとオンラインで閲覧できる仕様になっています。この運用では、家庭にインターネット環境がない生徒は、自宅学習時に教材を使うことができない。そこで、教科書会社と交渉し、初回認証のあと、生徒のタブレット端末にダウンロードする運用を認めてもらいました。本来ならば、補助教材なので、教員が使いたい部分だけを抜き出して配布できればよかったのですが、それはできないということなので、一式丸ごと、端末に入れる運用になりました。
そのような経緯で、2014年度の始まりに、生徒のタブレット端末にデジタル教材一式をダウンロードしたわけです。事前にネットワークの検証をして、授業を妨げることなくダウンロードできることを確認していたのですが、いくつかの教材に図版など重たいものが入っており、50分の授業時間内に配布が終わらないケースもありました。これを踏まえて、2015年度は配布方法を変更しています。
1年のライセンス契約終了によりデジタル教材を回収
さて、2014年度開始時に配布したデジタル教材は、2014年度終了時にアンインストールする必要がありました。これは、教員に渡したライセンスの契約期間が1年で切れるためです。教科書会社の本来の運用では、サーバで認証が受けられるのはライセンス期間中だけで、契約終了後はデジタル教材にアクセスできなくなります。佐賀県は、特別にお願いしてローカルにダウンロードさせてもらっていたわけです。ですから、契約が終了した時点で、生徒の端末から消してもらいました。
消去させたのは、あくまで1年契約のデジタル教材だけで、生徒が自費購入した辞書などをアンインストールさせることはありません。佐賀県の高校生が使うタブレット端末は、鉛筆や計算機と同じ“教具”として生徒に自費購入してもらっているわけですが、その端末で使う英和辞書、和英辞書、国語辞典、古語辞典も生徒の自費購入になり、これらは一括購入したタブレット端末にはあらかじめインストールされています。