価値創造のスピードがデータ活用の成否を決める
このように、企業の内外データを「状態」を意識しながらインプットして、トライ&エラーで相関関係を見出しながらデータセットを設計すれば、効率良くトライ&エラーのサイクルを回して適切な分析結果に近づいていくことができる。
だが、本当に肝心なのは、データ活用の結果、ビジネスにおけるアクションにつなげていくためのシステム構築(もしくは、機能追加、修正など)だ。第3回目の連載でも述べたように、アクションにつながらなければ業績の向上にはつながらない。しかも、データ活用においては、アクションの「スピード」が重要だ。
企業である以上、費用対効果の観点から慎重に判断する姿勢が必要ではあるが、慎重さだけを重視していると、せっかくデータ分析で新しいマーケットやビジネス機会を見つけても、他社に先を越されてしまう。
システム構築においても、企業生命に影響がでない程度でスピードに賭け、「駄目なら諦める」というようなリスクの取り方も必要となっているのではないだろうか。データ分析に取り組む以上、システム構築のプロセスにも圧倒的なスピードが求められることは、もはや避けられない。
例えば、データ分析の結果、なんらかの新しいサービスを始めようとするならば、その因果関係を検証している間にもサービス立ち上げの準備をスタートさせ、市場や顧客からのフィードバックを得ながらチューニングしていくようなプロセスでなければ間に合わない。
さらに、その場合のプログラミングを含む開発は、あくまでもリリースまでのスピードを重視して考えることになる。アジャイルリーン型のプロセスを採用した上で、ビジネスがうまく行かなければ捨ててしまうという、覚悟も必要となる。
再利用される保証がないシステム開発である、という前提に立ち、抽象度が低かったり、再利用性が低かったりすることに拘泥することなく、「一日でも早く稼働するシステム」を開発することに注力するのだ。
リファクタリングは、ビジネスが拡大する過程の中で実施すれば十分なのである。せっかくのデータ分析の結果は、アクションのスピードにサポートされなければ、すべてが無駄になってしまうのだから。
なお、データ分析の能力の確保はどの企業にとっても大きなテーマになりつつあるが、能力強化に向けた筆者なりの考え方を最後に述べておきたい。
社員トレーニングや、協力会社との協業は大事だが、社員が自身で作成したデータセットまたはグラフを広く公開し、分析やディスカッションに参加する人を広く求めることで、知見を補強することができる環境が、ネット上には既にある。データ公開にはセキュリティの問題が絡むが、公開の方法や範囲をコントロールすることで、可能性は確実に広がる。
トライ&エラーとあわせて、オープンなアプローチを試みながら、スピードを高めていく姿勢を大切にしたい。
第5回は、データ活用を支える組織のあり方、ワークスタイルについて解説する。
- 樫村 清尊 株式会社シグマクシス システム・シェルパ プリンシパル
- ソフトウェアハウス、独立系SIerを経て、2009年1月にシグマクシスに参画。カットオーバーをシステムのスタートラインと位置づけたインフラ設計、データ設計、運用設計に強みを持つ。製造流通から金融、商社の幅広い業界の基幹・個別システムの導入の実績を持つ。データベース講師の経験も有する。