ワインを飲むようになると、それが共通の話題となり、会話に花咲くことでしょう。第2回「デキる男のワイン術--「猫の尿」「濡れた犬」「腐葉土」ワインの表現は奥が深い」でも取り上げましたが、ワインの香りや味わいを言葉で表現するって、難しいですよね。
ワインが生業ではない限り、ことさら細かく表現する必要はないし、あまりしつこく語ると「出たよ、ウンチク。これだから嫌なんだよなぁ?」と思われてしまう可能性があるので、あまりごちゃごちゃ言うのはオススメしないのですが……。それでも、一緒にワインを飲めば、お互いの感想を共有したいもの。そこで今回は、ワインについて言及するときに、使わない方がいい用語について見ていきましょう。
におい
ワインを飲み始めたころの日記を久しぶりに読み返してみました。当時は、たとえ398円のワインでも、飲んだワインのラベルを逐一はがしてファイリングしたり「ワインノート」を作って、ワインの感想を書き連ねたりしていました。そのなかで、気になる一文が。「味はよくわからないけど、良いにおいがした」って書いてあったんです。「におい」というワードに引っかかりました。後から見ると違和感を感じることも、当時は気づかないものですね。今だったらワインの香りのことを『におい』とは言わないでしょう。女性を口説くとき、「いいにおいだね」よりは「いい香りだね」といった方がどことなく上品で印象が良いのと同じ。厳密な定義では、「におい」にも「臭い」「匂い」の2つがあり、いいにおいを「匂い」、悪いにおいのことは「臭い」を使いのが一般的。その中でも、良いにおい(匂い)のことを「香り」というようです。
後から見ると「おかしいな」と分かることも、初心者のころは気づかないものですね。今だったらワインの良い香りのことを「におい」なんて言いません。だって、女性を口説くとき、「いいにおいがしますね」なんて言いませんよね? なんだか、偏ったフェティシズムを持った変質者みたいで、気持ち悪い。
ワインに一般的に見られる88種類のアロマがキットになっている
ただし、ワインには、時々首を傾げたくなるような異臭がすることもあります。ワインの香りの表現には、「麝香鹿」「猫の尿」「スーボワ(森の下草)」など普段馴染みのないものもあり、もとの香りを嗅いだ経験がないと、なかなか使いにくい。そんな人のために、ワインの専門家がプロデュースしたワインテイスティング用キットも出ています。
なかなか高価で手が出にくいのですが、たまたま知人が持っていたため、ワインエキスパートの2次試験(テイスティング)前に貸してもらい、目を閉じて手にとった小瓶の香りを当てる訓練をしていました。
「レモン」「ラズベリー」「ラベンダー」など果物や花の香りにあたるとガッツポーズなのですが、「ブショネ(コルク腐敗臭)」や「馬の汗」などに当たると、瓶を鼻に近づけた瞬間、気分が悪くなって大変でした。
虹有社『においと味わいの不思議 知ればもっとワインがおいしくなる』
香りの感じ方には個人差があります。人によって心地よいと感じるものと、そうでないものがある。例えば、日本の白ワインに時々感じるのが、タクワンのような、切り干し大根のようなにおい。タクワンが好きな人ならたまらない「香り」だし、そうでない人には不快な「におい」かもしれない。個人的な嗜好です。
ワインを飲んで「におい」というと、「あ、飲み慣れていない初心者だな」と思われるか、香りの専門家かどちらか。においや香りの分野は奥深く、それについて1冊の本も出るほどです(虹有社『においと味わいの不思議 知ればもっとワインがおいしくなる』)。突き詰めていくと、深い世界に足を踏み入れそうですが、一般的に楽しむ分には、専門家の知識は必要ありません。
一ついえるのは、言われて嬉しくない事は、言わないほうがベター。「良いにおいだね」よりは「良い香りだね」と言いましょう。
- 青山葉月
- ライター/ワイン・エキスパート/俳人
- 大学卒業後、某大手通信企業でのシステム保守時代にワインに出会い、あっさりワインの道へ方向転換。「飲んで覚える」をモットーに、3年間で200回以上のワイン会、イベント、試飲会に参加し、2013年に独学でJ.S.A認定ワインエキスパートを取得。飲んだワインは5000本以上。現在はフリーランス活動を開始し、ライターとして情報を発信するほか、都内のワイン・バーにてソムリエールとして勤務。また、ワインイベントの企画プロデュース、サロン運営を通してワインの魅力を伝えている。趣味で俳句をたしなみ、最近はワインを俳句で表現することを楽しんでいる。このコラムでは、ビジネスマンに役立つワイン・ネタをお届けしたいと思います。