米軍も採用、元・吉本興業CFOが創業--未来に映像を送れる「KeepTree」の秘密

羽野三千世 (編集部)

2015-06-29 18:07

 KeepTreeが3月に国内提供を開始した「KeepTree」は、ビデオメッセージを最長99年先の未来日時に届けるサービスだ。シンプルなシステムだが、2013年11月に米国でリリースされるやいなや、個人だけでなく、軍隊や医療研究機関、民間企業が採用した。国内でも、さまざまな業界でのビジネス利用が期待される。


KeepTreeのスマートフォンアプリからビデオメッセージの配信日時を指定

 使い方は簡単だ。ウェブブラウザやスマートフォンアプリからKeepTreeのサーバに動画をアップロードして、配信日時と配信先のメールアドレスを設定すると、指定した日時に動画受信の通知とKeepTreeへのログインを促すメールが届く。動画は、KeepTreeのサイト上で視聴できる仕組みだ。SNSやMMSなどでの動画コミュニケーションとは異なり、受信者以外への転送や端末へのダウンロードができない「非拡散型のコミュニケーション」を特徴とする。

 もう1つの特徴は特徴は、米国の中央情報局(CIA)や連邦捜査局(FBI)のセキュリティシステムを開発している米Blue Ridge Networksとの契約により、堅牢なセキュリティで動画を保護する点だ。動画はBlue Ridge Networksのデータセンターで管理され、送受信中は暗号化される。

 米KeepTreeの創業メンバーであり、日本法人 代表取締役の中多広志氏は、同サービスについて、「未来日時での動画配信、非拡散型、高水準のセキュリティの3要素が揃うことで、ビデオメッセージの新しい活用シーンが創出された」と説明する。

戦場の兵士が未来の家族の記念日にメッセージを残す

 米軍では、駐留中の兵士が家族とコミュニケーションをとるための手段として、KeepTreeを導入している。「軍は、兵士のストレスを緩和するために国にいる家族と気軽に日常会話をすることを許可したいが、今どこにいるか、いつ移動したかなど何気ない話題にも軍事機密が含まれてしまう」(中多氏)。KeepTreeを使うことで、情報漏洩のリスクを低く抑えながら家族とコミュニケーションをとることが可能になる。

 もう1つ、米軍がKeepTreeを採用した大きな理由がある。「戦場の兵士は常に死と隣り合わせにある。未来の家族の誕生日や、子供が成人する日に向けたメッセージを残しておきたいというニーズがある」(中多氏)

医療分野での活用の可能性

 プライバシーを保護しながら医師と患者がコミュニケーションをとることができるツールとして、医療業界からも注目されている。

 米国のある大学の医学部では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療にKeepTreeを活用している。「PTSDの治療では、医師が患者に高頻度でコンタクトする必要がある。多忙な医師でも、KeepTreeを使えば、患者に向けたビデオメッセージを録り溜めて先に送っておくことができる」(中多氏)

 そのほかにも、機密情報が含まれるビデオメッセージをセキュアに配信できる仕組みに着目した一般企業が、朝礼の時刻に合わせて企業トップが社員に向けた業務メッセージを配信したり、M&Aの交渉先企業との連絡手段に活用するなど、幅広くビジネスに利用しているという。


ウェブブラウザでビデオメッセージを視聴する様子。スマートフォンアプリからも視聴できる。

荷物と同時にビデオメッセージを届ける

 同社では、KeepTreeの機能を運輸業向けに拡張した「ハグメッセージ」というサービスも提供している。ハグメッセージは、運輸会社の配達システムと連動し、荷物の配達完了をシグナルとしてビデオメッセージを送信するものだ。例えば、ECサイトで品物を購入した消費者に対して、品物が届いたタイミングに合わせて、生産者やメーカーからビデオメッセージを送信するといったことが可能になる。

 中多氏によれば、すでに国内通販会社やEC事業者から引き合いがあるという。「食品を購入した人へ調理方法や食べ方を解説する動画を送る、家電を買った人に取扱方法を教える、家具の組み立て方法を解説するなど、用途は広い」(中多氏)

共同経営者の病気をきっかけにサービスを構想


KeepTree 代表取締役 中多広志氏

 中多氏は、かつて吉本興業の最高財務責任者(CFO)として、同社の非上場化を担当した。その後、ビジネスの場を米国に移し、2013年に米国でのビジネスパートナーだった人物の息子であるJonathan Loew氏とともに、ニューヨークでKeepTreeを起業した。

 KeepTreeのサービスを構想したきっかけは、共同経営者のLoew氏の病気だった。「Jonathanが命にかかわる大病にかかったとき、彼は自分の子供に人生の教訓を伝えておきたいと考えた。しかし、彼の子供は当時まだ6歳。人生を語るには幼すぎた」(中多氏)

 幸いLoew氏は病から回復し、自分の家族のために構築した未来時刻動画配信の仕組みに関する特許を取得して、中多氏とともにKeepTreeを立ち上げた。2015年1月に日本法人を設立。今後の研究開発、システム構築などは日本で行っていくとする。

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