データグラビティを支配せよ
どんな企業においても、自社が持つデータは大小の差はあれど引力を持っている。また、当然のことながら自社のデータの引力がとある範囲(業界など)において、必ずしも最大である必要はない。大事なことは、客観的に自社のデータグラビティを把握することである。自社が既に持っているデータのグラビティを評価し、それを流通させることで得られる具体的なリターンを模索するのである。
例えば、カルチュア・コンビニエンス・クラブが運用するT-POINT傘下に加わるシチュエーションが分かりやすいだろう。コンビニやガソリンスタンドなどでの消費者の行動データは、単体では小さな引力だが集まれば巨大となる。BtoCの領域だけではなく、今後はBtoBにも発展していくことを期待する。
IoT/IoE時代が本格的に到来すると、新しく取得できるようになるデータが出てくるだろう。さらに、第三者から提供されるデータも加わり、企業が扱えるデータの種類は今よりも、はるかに多くなる。データ活用戦略を考える上で、これらの新しい情報のグラビティを正確に評価することは非常に重要である。
IoTという文脈に合っているだけで、市場で見向きもされないデータを取得する企画を立てていないだろうか。第三者から得ようとしているデータは、もしくは自社のデータの提供先は、本当に業界や社会を代表するデータソースになり得るだろうか。データグラビティを読み間違えず、できれば「支配する」つもりで戦略を練っていく必要があるだろう。
通貨をデータグラビティのメタファーとして取り上げたが、決定的な違いがひとつある。それはデータとデータは、組み合わせることで新しいデータを生成することができるという点である。ドルと円をいくら組み合わせても新しい概念は出てこないが、データ同士の場合は新しい価値を創造できる。
これまで出てきた3つの企業データ(既存データ、IoTデータ、第三者データ)に、この新しいデータを付け加えた概念図が図3であるが、データのグラビティを支配した際に得られる最も大きなリターンは、何を隠そうイノベーションなのである。
企業が活用できるデータのポートフォリオ
ビッグデータやIoTの時代に差し掛かり、データの「総質量」は今後爆発的に増えていくのは間違いない。言い換えれば、どこにどのようなグラビティが発生してもおかしくないのである。データはどちらかと言えば「隠すもの」「守るもの」という意識が、特に日本ではまだ根強いが、それは「タンス預金」のようなものだ。
企業が保有する多くのデータは「流通させる」ことで輝く可能性があり、何の評価もせずにしまい込んでいてはもったいない。流通するデータのグラビティを見極め、支配し、データエクスチェンジの潮流を読み切った企業が、来るIoT/IoEの時代にイノベーションという特大のリターンを得ることができるだろう。
くり返すが、データは「通貨」のようなものである。まずはそこから自社のデータ活用戦略を見直してみてはいかがだろうか。
- 林 大介
- シスコシステムズ合同会社 シスココンサルティングサービス マネージャー 電機メーカのエンジニア、通信システムインテグレーターのセールスを経てコンサルティングの道へ。ネットワーク、モバイルを中心とし た戦略立案、新規事業開拓、テクニカルアドバイザリーを中心としたプロジェクトを多数実施。昨今はクラウド、M2M、IoT/IoE などの技術トレンドを背景にしたデジタル戦略策定、IoT/IoE新規事業創造、ワークスタイル変革に注力し、各種戦略策定、変革実行支援などを手がける。