文部科学省は6月30日、デジタル教科書の位置付けに関する検討会議(関連記事)の第2回目を開催した。同会議は、教育研究者、学校関係者、民間企業のICT教育関係者で構成される17人の委員でデジタル教科書の教育効果や法制度の在り方などを検討している。
今回は、(1)文部科学省と総務省が2011~2013年度にかけて実施した学習者用デジタル教科書の研究開発事業「学びのイノベーション事業」の研究報告と、その成果を踏まえた討議、(2)一般社団法人教科書協会によるデジタル教科書の現状解説と提言――が行われた。
デジタル教科書の位置付けに関する検討会議(第2回)の様子
学習者用デジタル教科書活用で学力向上の傾向
学びのイノベーション事業では、小学校3年生用から中学3年生用までの学習者用デジタル教科書のモデルコンテンツを開発し、1人1台の情報端末、電子黒板、校内無線LANを整備した実証校20校(小学校10校、中学校8校、特別支援学校2校)で、各校が使用している検定教科書に準拠したデジタル教科書を使った授業を実践した。
小学生用はWindowsタブレットPC向けにAdobe Flashで開発。中学生用は、実証校でWindowsタブレットとiPadが混在していた事情から、Windows版とiOS版を開発している。主な機能として、(1)拡大機能、(2)音声再生機能、(3)アニメーション機能、(4)参考資料機能(教科書紙面にはない画像や資料を閲覧する)、(5)書き込み機能、(6)作図、描画機能(画面上で図を動かすなどの操作をする)、(7)文具機能(画面上で分度器やコンパスを使用する)、(8)保存機能(画面への書き込みを保存する)、(9)正答比較機能――を実装した。
実装した各機能のうち、小学校の授業の70%以上で使用したものは、理科、社会、算数での「拡大機能」、国語、算数での「書き込み機能」、外国語での「音声再生機能」だった。中学校で授業の70%以上使用した機能には、全教科での「拡大機能」、理科の「参考資料機能」がある。
研究報告では、学習者用デジタル教科書を活用した結果、児童生徒に学力向上の傾向がみられたとしている。実証校における標準学力検査の結果を2011年度と2012年度の経年で全国の状況と比較すると、小学校、中学校ともに低い評定の出現率が減少した。また、中学校では、高い評定の出現率が高い集団で、さらに評定が高くなる傾向があった。
実証校における学力の変化(文部科学省「学びのイノベーション事業 実証研究報告書」より抜粋)
デジタル教科書の検討にはさらなる効果検証が必要
学びのイノベーション事業の研究報告について、検討会議の委員からは次のような意見が出た。
千葉大学 教育学部 教授の天笠茂氏は、「デジタル教科書の効果検証には、子どもや教員の変化だけでなく、ICT導入によって学校組織がどう変わったのかという視点も必要だ」との考えを示した。さらに、デジタル教科書については教科ごとの特性だけでなく、子どもの発達段階に応じた適用の在り方を考える必要があるとした。
光村図書出版 専務取締役 編集本部長の黒川弘一氏は、「年間を通してデジタル教科書を活用していないので、この実証事業だけでは十分な効果検証ができていない」と指摘。今後、デジタル教科書に実装する機能を検討するには、さらなる効果検証の取り組みが必要だと述べた。
教科書協会による学習者用デジタル教科書への提言
次に、教科書協会による「デジタル教科書の現状」についての解説と、デジタル教科書についての提言が行われた。教科書協会は、検定教科書を制作する出版社39社が加盟する業界団体であり、検定教科書の供給や制度に関する調査研究を行っている。
同協会の調査では、2015~2019年版の小学校用検定教科書48種のうち、全体の90%にあたる43種で、それに準拠した指導者用デジタル教科書が発行されている。2011~2014年版での発行割合は48種中32種(62.7%)であり、2015年度の小学校教科書改訂を機に発行割合が増加した。
2012~2015年版の中学校用検定教科書58種のうち、準拠した指導者用デジタル教科書が発行されているものは41種(70.7%)。2016年度の中学校教科書改訂後は、小学校と同程度の発行割合になると考えられる。
2014年3月時点で、指導者用デジタル教科書の普及率は小学校で42.2%、中学校で42.4%であり、電子黒板と平行して学校現場に定着しつつある。
一方、学習者用デジタル教科書については、先進校で実証的に活用され始めた段階だ。
実は学習者用デジタル教科書の発行率は5割以上
同協会によれば、学習者用デジタル教科書は、2013年から高校用、2015年から小学校用の発行が始まった。2015~2019年版の小学校用検定教科書48種のうち、学習者用デジタル教科書が発行されているのは28種、発行が予定されているものが3種ある。発行割合は56%と一定率あるが、教科書の一部だけをデジタル化したものなど形態がさまざまだという。
同協会は、学習者用デジタル教科書の普及のためには、標準化と法整備が必要だと考える。児童生徒や指導者が、教科や発行会社による仕様の違いによって混乱しないように、ビューアやプラットフォームの標準化は必須だとする。また、法整備については、デジタル教科書に掲載する著作物について、教育目的利用についての著作権法の特例と、掲載補償金制度の適用を検討するべきだと提言した。
紙の検定教科書では、著作権法の特例により、著作物を無許諾で掲載できる。ただし、無許諾での掲載にあたっては、著作者へ補償金を支払わなければいけない(掲載補償金制度)。デジタル教科書への掲載補償金制度の適用については、コストや掲載期間の契約の在り方、オンラインでの閲覧を前提とした契約の在り方について検討する必要がある。