「ダイバーシティを経営戦略として進めるためには、トップがしっかりとコミットメントし、それを取引先も含めた社内外に働きかけること。そして人事部門が主導して勤務環境の改善や長時間労働の削減などを明確な職務として行う。さらに、社員の意識改革や能力開発にも力を入れている」
経済産業省は東京証券取引所と共同で「なでしこ銘柄」も選定している。優れた女性活用を実施している上場企業を各業種ごとに紹介し、置かれた状況が同じ中でもトップランナー的な企業を紹介するという取り組みで、毎年3月に発表している。
福地氏は最後に「女性の活躍を企業の経営戦略として、しっかり成果につなげているところが出てきている。こういったところを今後も積極的に後押ししていきたい」と語り、講演を締めくくった。
帰社時の「すいません禁止」がもたらす効果
次に登壇したのは、グーグル サーチ&ブランド・マーケティング統括部長でWomen Will プロジェクトリードを務める平山景子氏だ。グーグルでは “テクノロジを利用することによって働き方をハードからスマートに変えていく”をミッションに、2014年10月から「Women Will」というプロジェクトを立ち上げた。
グーグル サーチ&ブランド・マーケティング統括部長 Women Will プロジェクトリード 平山景子氏
平山氏は、第1子の出産後に職場を離れてしまう女性が6割にも及ぶ日本の状況を鑑み、「最大の原因は長時間労働と柔軟性のないハードな働き方」と斬る。「テクノロジを活用すれば、いつでもどこでも、共同作業もできる。出産後も働きたいという女性や両立したいけど不安があるという女性も『柔軟でスマートな働き方ができれば、仕事を続けられそう』とアンケートで答えている」と平山氏。
そこでプロジェクトが柱とするのは“働き方の変革”。プロジェクトでは、発足時から「未来への働き方のコンソーシアム」として、広島県庁、KDDI、日産自動車と共同で“スマートな働き方”の導入実験を続けている。実際の効果や課題を詳らかにし、さらにその克服方法などを検討し、働き方改革のための具体的なティップスを明らかにするという取り組みだ。
これまで行われた実証実験から得られた、働き方の改革を成功に導くために必要な要素は、(1)柔軟な働き方を可能にする制度、(2)多様な働き方を受け入れる文化、(3)時間と場所にとらわれない働き方を実現するテクノロジ――の3つに集約されるという。「これら3つが揃うことによって、スマートな働き方に変わっていくとわかった」(平山氏)
また、働き方を変えていく上で重要なポイントを次のように総括した。
「最も大事なのは、働き方改革を女性や育児中の社員など特定の人だけのための取り組みにするのではなく、すべての働く人の改革と位置付けること。さらに“働いた時間=成果”ではない。長時間働いている人が成果を出しているという思い込みはやめること。多様な働き方やいろんなライフスタイルを尊重する。時間に対するコスト感覚、トップダウンとボトムアップの組み合わせによって制度の有効利用を促進していく」
また、グーグルでは「未来の働き方」と題したウェブ上のガイドブックを作成しているという。働き方改革を一部の人たちのものにしないために重要なポイントをスターターガイドという位置付けでまとめたもので、1人1人の実践的な小さなアイデアを集めて、共有できるようにしている。
その中でも人気なものとして紹介されたのが、帰社時の“すいません禁止”。「そんな小さなことと思われるかもしれないが、働くママたちは週5回これを言ってコソコソと職場を出ていく。その後ろめたさを軽減させてくれるアイデア。この小さな積み重ねが働く人たちに定時に帰ることが普通なんだという意識をじわじわと広げてくれる」と平山氏は語る。
プロジェクトにはすでに70社以上の企業が賛同し、こうしたアイデアが3000以上も集まっているという。こうしたアイデアを自社で実践してくれるサポーター企業を引き続き募集しているとしている。
平山氏は「グーグルのイノベーションに取り組む考え方は“Think Big, Start Small(志は大きく、スタートは小さく)”。大きな変革にチャレンジしようというとき、いつまでも議論しているだけでは実際の変革は起きない。小さくても第一歩を踏み出すことが大事。そして成果が出ることによって、やってみようという気持ちがみんなに生まれる。そしてこれが大きな変革につながる」と述べ、引き続き働き方改革の提案を続けていく意向を示し、聴講者にプロジェクトへの参加を促した。