ベンチャーキャピタルは女性起業家をどう見ているのか?
その後の基調講演パネルでは、女性起業家とベンチャーキャピタルがテーマとなった。モデレーターを務めたDonna Harris氏(米国のビジネスインキュベーター”1776”の共同創業者)、自身がベンチャーの教育や支援に回るようになる前の経験を明かす。
たとえば、キャリアをスタートさせたEDS(Electronic Data Systems、2008年にHewlett-Packardが買収)時代、上司からリーダーは難しいことなのでリーダーを目指すべきではないといわれたこと、事業拡大のためのアイデアを上司にプレゼンするとアイデアそのものは合意したが他の部署からやってきた年上の白人男性がそのプロジェクトのリーダーとなった、などのことだ。その後のOracleでも、男性中心のビジネス社会を実感したという。これらの経験からHarris氏は、教育系ベンチャーのKinderstreetを創業し、スタートアップのハブを目指す1776立ち上げに至る。
だが、そのEDSを買収したHP、Oracleを現在率いるのは女性CEOだ(Oracleは共同CEO)。「時代は変わった」--Harris氏は満足を示しつつも、ベンチャーキャピタルによる投資のうち、女性起業家はいまだ4%を占めるにすぎないこと、ベンチャーキャピタル側をみても女性のパートナーは5~6%にとどまることなどの現状を指摘する。
「エネルギーは、注意が注がれるところに向かう」とHarris氏は慣用句を用い、女性起業家の価値を示す例を作ることで変わっていくことができるとの信念を示した。幸い、開催地となったドイツではメルケル首相が国を率いており、米国ではイエレン氏が昨年連邦準備制度(FED)の議長に就任、国際通貨基金(IMF)のラガルド氏など重要な国際機関でも女性がトップを務めている。「変化は見えてきた」とHarris氏。
では女性起業家への投資が4%にすぎないというベンチャー投資は、どのように変えていくことができるのか? パネルに登場したErnst & Young(E&Y)のプリンシパルで女性起業家支援プログラムEntrepreneurial Winning Womenで北米担当エグゼクティブスポンサーを務めるKerrie D. MacPherson氏、Intelの投資部門Intel Capitalでマネージングディレクターとして中国を担当するLisa Zhang氏、女性の起業家支援・ネットワークのSpringboard Enterprisesのプレジデント、Amy Millman氏が話し合った。
MacPherson氏は投資対象としての女性起業家の優秀さを挙げ、女性がトップを務める企業の成長率は68%と優秀なレベルだったとする。一方で、世界の会社のうち3分の1が女性を占めるが、年商1億ドルに到達した女性経営企業は2%にとどまる。起業する女性の半分以上が途上国の女性で、野菜や食品を販売するショップなどが多くを占める。男性の起業と比べると事業拡大のノウハウや知識がないため、規模拡大することはほとんどない。
「素晴らしい製品やアイディアがあっても、資本へのアクセスがなくて、メンターがいない」とMacPherson氏は問題を指摘する。そこでEntrepreneurial Winning Womenの展開に至ったというが、プログラムを担当してから7年間で学んだこととして、「大きく考える、おそれるな」「(女性起業家が)企業やブランドの顔となる」「オペレーションチームを持ち、任せる」「投資を受ける」の5つをあげた。
3つめのオペレーションチームは、起業後に軌道にのった段階でのチーム作りの重要性を説くものだ。「起業家はビジネスの中ではなく、ビジネスの上でフォーカスすべきことに取り組むべきだ」とMacPherson氏、5つのアドバイスとも男女共通の起業家の課題といえそうだ。