ユーザーを想定する
ユーザーを想定し、ユーザーの立場や視点に立って設計する、という設計思想は「人間中心設計」( Human-centered Design:HCD)や、「ユーザー中心設計」(User-centered Design:UCD)と呼ばれるものが有名である。それらの思想に沿って実際に設計をすすめるための方法はいろいろと提案、解説されている。
簡単にまとめると、ユーザーの視点から見るために、ユーザーを観察し、ときに直接インタビューし、試作したものを使ってもらうといった施策を繰り返すことで、使いやすいインタフェースを作っていくことである。
ここで強調しておきたいのは、たとえ、ユーザーを観察したりインタビューしたりしても、「ユーザーの視点に立つ」ことは簡単ではないということである。
観察された行動やユーザーが答えた内容もさることながら、「なぜ」そう行動したのか、「なぜ」そう答えたかなどのユーザーの「内面」を適切に推測する。それを元に、新しく作るUIやアプリケーションに対する反応を、細かなところも含め可能な限り想像せねばならない。
この作業は、あくまで第三者として、客観的にユーザーの主観を考える必要があり、それには訓練や経験が必要である。これはUIとUXどちらの観点からも重要なポイントである。
まずは「自分」、そして「身近な他人」
客観的に主観的な視点を考えるためには、逆説的であるが、まず「自分がユーザーだった場合の視点」をしっかり考えられるようにする必要がある。
自分がユーザーの場合を考えて設計するというのは「ひとりよがりなものになるのでは」と思われがちである。
それはむしろ逆で、自分がユーザーだった場合すら充分に考慮できなければ、他人であるユーザーが使う場合を的確に想像できるはずがない。もちろん、設計する立場としての都合はなるべく忘れる必要があり、それも他人の視点を考えるための練習となる。
さまざまなシステムを使う場合の、“個々の細かなUIを操作する際に感じる自分の感覚”を思い描けるだろうか。これも意外と難しいと感じる人も多いであろう。
引っかかったところ、気に留まらないくらい快適に使えたところを思い出し、「どう」引っかかったのか、それが「なぜ」なのか。気に留まらなかった背後で配慮されていたのは何か、UXという面から見るとどうなのか、などを考えてほしい。
自分がユーザーだった場合をある程度考えた次は、家族や親しい友人、同僚などの「身近な他人」がユーザーだった場合を考えるとよい。本来の想定ユーザーとは少しずれるかもしれないが、よく知らない全くの他人や架空の人格よりも、よく知っている身近な他人は行動や反応を想像しやすいし、より具体的な想像ができる。
そして何よりも、自分(設計者)に都合よくは動いてくれない、ということを無意識に認識できている、もしくは少なくとも想定しやすいであろう。「あの人がこれを使ったら、ぜったいにこういうことするよね」のように思ったことはないだろうか。
そういった、ぱっと反射的に思いつく他人の反応や行動パターンの積み重ねが、(一般の)ユーザーの視点に立つための、モデルの構築につながっていく。
自分にせよ、身近な他人にせよ、今、作ろうとしているシステムに対する反応がよく想像できない、あるいは想像どおりかどうかを確認したい、というときには、積極的に試作し、使ってみる、使ってもらってみるのが重要である。観察と想像(そして試作)を繰り返すのがUI/UX設計の勘を磨く手段である。