設計できる部分、できない部分
このような、組み合わせで生じるUXは個々の部分を見ているだけでは見落としがちである。上述の例の場合は「当たる確率は高くない」ということも関連しているので、余計に想像がしづらい。
しかし、設計段階で入念に考察すればある程度は分かるだろう範囲であるし、試作して、しっかり観察すれば比較的早く気がつくことができ、設計し直すことで回避できるであろう。
ユーザー個人ごとの経験や嗜好に依存したり、周囲の(偶然を含む)環境によって変わったりするようなUXとなると、アプリケーションやUIの設計により、どう左右されるかはなかなか分かりづらいし、観察から理解するのも難しくなってくる。限界を理解しつつ、可能な範囲でできる限り想像、考察するという姿勢が重要になる。
想像や考察の幅を広げ、深さを増すためにも、やはり「観察」が最重要である。特に、設計するとき以外の日常のさまざまな場面での自分や他人のインタラクションを積極的に観察すると、よい訓練となる。「自分がユーザーだった場合の視点」を適切に捉えることにもつながるのに加え、設計できる部分とできない部分を見極める目も養うことができる。
組み合わさることでいまいちになっている他の例 左の絵で、廊下の左側にあるトイレのサインが右側の壁に付いているが、 それだけであればあまり問題はない。 右の絵のように、さらにその奥の左側の壁に右側を示すサインがある場合は、混乱を誘う。
まとめ
UXをデザインするためには、いろいろな状況や状態をしっかりと想定しなければならないこと、ユーザーの視点に立つことは決して簡単ではないことなどを述べた。
まずは自分や身近な他人の視点で考え、そこから、一般のユーザーの視点を考えるというステップを踏んでいくといい。観察と想像、試作と、試しに使ってもらう、ということを繰り返すのがUI/UX設計の勘を磨く手段である。
次回は、UIの良し悪しを評価することに関して論じる予定である。「失敗例」いわゆる“Bad UI”も取り上げたい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。 ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。 HCI が専門で、GUI、実世界指向インタフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。