SAP シニアバイスプレジデント Daniel Schneiss氏
「HANAは基幹系のERPを運用できます。同じプラットフォームでソーシャルデータの分析も、マシンデータのハンドリングもできるのです」と言うのは、SAP HANAの開発総責任者であるシニアバイスプレジデント Daniel Schneiss氏だ。HANAのプラットフォーム化は、アプリケーションの開発者に大きなメリットをもたらす。そして、プラットフォームのインテグレーションに手間をかける必要がなくなり、ユーザーに本来の意味でのビジネスメリットを提供するとも言う。
SPS10では地理空間情報エンジン、テキストマイニング機能などがデータベースのカーネルに組み込まれた。センサやモバイル端末から収集されるデータは、位置情報と紐づくものが多い。なので、IoTのソリューションを展開するのに、この地理空間情報エンジンの搭載は有利に働くだろう。
またSP10では、Hadoopへの連携対応も強化された。HANAはインメモリ型のデータベースなので、莫大なデータをハンドリングしようとすれば大規模なメモリが必要となりコストは高くなりがちだ。そのため大量データの処理では、Hadoopも含んで考える必要があるというのがSAPの考え方。今回はそのためにHadoopとのデータ同期機能を強化し「HANAのリアルタイム性とHadoopの無限のストレージを組み合わせることが可能となりました」とSchneiss氏は言う。
Industrie 4.0やIoTはビジネスモデルの変革だ
Industrie 4.0では、ともすると「スマート工場」を実現するためのソリューションとも捉えられる。実際はサプライチェーンも含めたより広いソリューションを目指している。スマート工場で工場内をつなぐ、同じ企業グループの工場やサプライチェーンがつながるだけならば、インターネットではなく"Intranet of Things"でも対応できるだろう。つまりIndustrie 4.0では、IoTが必須というわけではないのだ。
SAPは何もIndustrie 4.0だけに拘っているわけではない。「一般的にはIoTの一部にIndustrie 4.0が含まれます。SAPもおおよそそう捉えています」と言うのは、SAPジャパン プラットフォーム事業本部第一営業部長の大本修嗣氏だ。Industrie 4.0では、工場内だけでなく物流や設備保守、さらには小売りなども含んだ産業全般の連携を考えている。なので「ファクトリではなくインダストリとより大きな概念となっています」と大本氏は説明する。このIoTというより大きな領域にも積極的に取り組むため、SAPはIndustrial Internetのコンソーシアムメンバーにも名を連ねている。
実際、SAPはIndustrial Internet的なソリューションにもすでに積極的に取り組んでいる。アフリカでの水供給のプロジェクトでは、ポンプにセンサを付け予防保守を行うことで、故障などで地域への水供給が滞るのを防いでいる。さらにポンプから得られる水の消費量データや地域の病気発生率データなどを組み合わせて、ポンプ配置の最適化などにも取り組んでいる。
またコンプレッサメーカーは、センサ情報を利用した予防保守だけでなく、従来の機器販売ビジネスを、機器から得られる圧縮空気を提供するサービスビジネスへ転換した。このような動きは、まさにGEが進めているIndustrial Internetののソリューションと同様なものだ。
さらにユニークな事例が、ハンブルク港湾局で行っている船、トラック、鉄道といった輸送手段を徐々に相互接続し「未来のコネクテッド港」を目指す取り組みだ。ハンブルク港では限られたスペースの中で交通渋滞があるために、トラックなどはかなり早くから荷揚げのための待機を強いられていた。つまりは、ハンブルク港ではかなり非効率な運輸状況となっていたのだ。
これに対して製造から輸送に至る情報をタイムリーに共有し、それに加えトラックや船の位置情報をリアルタイムに把握することで、待ち時間なしで荷揚げ作業ができるような工夫が始まっている。結果的には交通渋滞も減り効率的な運輸が確立することになる。これは工場からサプライチェーンまでをつなげるIndustrie 4.0的なものでもあり、トラックや船の位置情報を活用するIoTソリューションでもある。
Industrie 4.0がつながる工場から始まるとしても、関連するのは製造業だけでなくそれをとりまくさまざまな産業全体であり、それらを包括的に効率化するものが求められている。そう考えればIndustrie 4.0やIoTは「つなぐ、集める」ための技術的な課題ではなく、ビジネスモデルそのものの変革だと言えるだろう。