iPad導入がゴールになる
「野村證券、iPadを8000台導入へ--個人向け営業担当者に配布」、「JR東、「iPad mini」7000台導入--乗務員に配布、輸送障害時の情報を共有」、さらにはメガネの三城がiPadを4000台導入したといった記事を見て、「よし、当社もiPadを全営業担当に持たせるぞ!」と、そんな号令がかかることがある。その多くは経営層、あるいは部門のトップからの指令だ。そして、その指令を実行するのが情報システム部門であることが多い。
当然、自社と野村證券ではビジネスモデルが違うし、JR東日本とも違う。だから、自社なりの活用を検討する必要がある。しかし、「IT」というキーワードに縛られて、なぜか情報システム部門のメンバーだけで考えなくてはならなくなり、ユーザー部門からせっつかれるが、実際の活用場面をイメージできず、遅々として進まない。こんな経験をした情報システム部門の方がいるのではないだろうか。

情報システム部門の面々が、自社のビジネスモデルを理解していないことも多い。また、営業部門など他部門の動きを把握できていないことさえ、現実として起きている。
- 情報システム部門「何をしたいのか分からないから進まない」
- ユーザー部門「何ができるのか分からないから、答えようもない」
こういった「お見合い」が起きてしまうのは、何も情報システム部門だけが悪いわけではない。むしろ、経営層がタブレット導入の一連のプロセスを情報システム部門に丸投げしてしまい、報告だけを待って、プロジェクトに関わっていないことに問題があるのだ。
しかし、では経営層に文句をいうことで解決するだろうか。あるいは、文句を言えば解決するのだろうか。
プロジェクト化してもプロジェクトの本質を理解しないメンバーの存在
Wikipediaで「プロジェクト」を見てみると「プロジェクトは、何らかの目標を達成するための計画を指す」とある。しかし、タブレットの導入プロジェクトでは、明確なプロジェクトマネジメントが実施されないことが多い。つまり、強い意志を持ってプロジェクトをけん引する人の存在が必要なのだ。
「よし、当社もiPadを全営業担当に持たせるぞ!」
経営者が号令をかけて、社内でプロジェクトを発足する。多くの場合は情報システム部門が指名され、情報システム部門内でさほど意志もない人が担当になる。iPadのことだが、とりあえず出入りのシステム開発会社に相談する。あるいは、いつもPCを購入している業者に相談する。業者からは必要な台数の見積もりが出てくる。担当者は外部に見積依頼したことで、プロジェクトが進んでいるように勘違いしてしまう。この時点から、だんだんとプロジェクトの目的から遠ざかっていく。
ゴール設定を見誤る
「何のためにタブレットを導入しますか?」――過去にタブレット導入の相談を受けた企業に、筆者が何度か質問をしたことがある。もちろん、多くの場合は「営業が持ち歩いて、顧客に説明する資料を入れる」「タブレットで見積書を作成して、そのままメール送信できるようにしたい」「メンテナンス要員がタブレットで作業報告をできるようにしたい」「店舗の販売員が、タブレットから在庫補充をできるようにしたい」といった具合に、具体的な活用を考えている企業がある。
しかし、一方で「分からない」という回答も少なくない。「社長が入れろって言うのでとりあえず」とか「決算期なので予算を使い切る」という企業もある。まあ、決算期なので予算を、という気持ちは分からなくはないが、せっかく導入するのだから、有効活用を考えるほうがいいに決まっている。予算消化だけで持たされた社員は、下手をすると便利になるどころか、荷物が増えて、さらに余計な作業が増えることになる可能性もあるからだ。
ステークホルダーを見誤る
ステークホルダーというカタカナ語を使うことを嫌がる人も多いことだろう。筆者も、顧客と話す際には絶対使わないカタカナ語のひとつだ。しかし、最近では政府でも使われることが増え、その言葉を知っている人も多いのではないだろうか。日本語では、「利害関係者」と訳されるので、ちょっと堅苦しい印象があるが、簡単に言うと「関係者」のことだ。ただ、「関係者」を狭義にとらえてしまい、自分たちの社内や部署内だけに連絡を入れたり、確認をとったり、ということで済ませてしまうと、肝心な部分で反対を受けたり、あるいはトラブルになってしまうことがある。
ステークホルダーを「利害関係者」と訳す通りに、「利害」がある、あるいはありそうな人たちすべてをプロジェクトに巻き込むことが重要なのだ。