ノークリサーチは7月22日、中堅・中小企業におけるオンラインストレージサービスの活用実態に関する調査の結果を発表した。
調査は、日本全国全業種の年商500億円未満の中堅・中小企業において企業経営もしくはITの導入/選定/運用作業およびストレージの導入/管理の意思決定または実作業に関わる社員を対象として、2015年4月に実施され、有効回答数は536件。その結果、ファイルサーバ型サービスの導入率は37.1%に達し、今度もさらに伸びていく可能性が高いことが分かった。
以下、調査結果へのノークリサーチの分析について紹介する。
(ノークリサーチ提供)
年商500億円未満の中堅・中小企業に対して、既に活用中のオンラインストレージサービスを尋ねた結果が上のグラフ。
ここでのオンラインストレージサービスとは『ストレージ機器を導入することなく、クラウド事業者が構築/運用するストレージ環境をユーザー企業がインターネットを介して月額/年額のサービスとして利用する形態』を指す。調査は企業におけるストレージ活用状況の把握を目的としているため、アーカイブ用途などで利用される個人向け主体のサービスは含まない。
オンラインストレージサービスは、社内に設置されたファイルサーバと同じように各PCからアクセスしてファイルを参照、編集する『ファイルサーバ型』と、業務システムなどとAPIを介して接続し、データの格納場所やバックアップ先として活用する『ストレージ基盤型』の2つに大別される。
昨今、「オンラインストレージサービス」と言った場合の多くは「ファイルサーバ型」を指す。ファイルサーバ型は中堅・中小企業全体で37.1%と4割弱の導入率に達するが、一方で「全く活用していない」という企業もまだ58.8%存在する。大手ベンダーによるクラウドやスマートデバイスの促進策などによって、オンラインストレージサービスの導入率は今後も伸びていく可能性が高いと考えられる。
提供側には求められるのは利便性と安全性のバランスを踏まえた提案ノウハウの蓄積
個人向けのファイルサーバ型サービスの中には無償で利用できるものもあり、IT予算が限られる中堅、中小企業にとっては魅力的な選択肢となりやすい。だが、個々の社員任せにして、個人向けサービスを業務で利用する状態はデータ保護の観点からも好ましくない。
オンラインストレージサービスを訴求する側としては、個人向けサービスや無償サービスによるきっかけを作りつつ、本格的な業務利用においては法人向けサービスを提案するなどといったように、利便性と安全性のバランスを踏まえた提案ノウハウの蓄積が求められてくる。その点を踏まえて、ファイルサーバ型サービスの活用状況を年商規模別に尋ねた結果が以下のグラフである。
(ノークリサーチ提供)
【年商5億円未満の小規模企業クラス】
「状況を全く把握できていない」が29.0%に達しており、「社員が個人向けサービスを業務利用しているが、その状況を管理/統制できていない」の回答割合が29.0%となっているが、実際はさらに多くの「管理/統制されていない個人向けサービス利用」が存在する可能性がある。
企業の規模が小さくても情報漏えいのリスクは変わらない。企業向け/個人向けを問わず、業務利用においては何らかの管理/統制が必要であることを啓蒙していく必要がある。
個人向けサービス利用による「シャドーIT」は中堅の中位・上位企業層の方が多い
【年商5~50億円の中小企業クラス】
「企業として法人向けサービスを業務利用し、個人用サービスは禁止している」(38.7%)、「社員が個人向けサービスを業務利用しており、その状況を管理/統制できている」(29.0%)といったように、オンラインストレージサービスの利用を管理/統制できているユーザー企業の割合が小規模企業クラスと比べて高くなる。
ただし、「状況を全く把握できていない」が19.4%と依然として存在している点にも注意が必要。中小企業クラスについては今後も継続して統制/管理されたファイルサーバ型サービスの活用を訴求していくことが望ましいと考えられる。
【年商50~500億円の中堅企業クラス】
一般的に中堅企業クラスにおいては中小企業クラスよりもオンラインストレージサービス利用における管理/統制が進むと考えられる。
年商50~100億円の中堅Lクラスでは実際にそうした傾向が見られるが、年商100~300億円の中堅Mクラスと年商300~500億円の中堅Hクラスでは「社員が個人向けサービスを業務利用しているが、その状況を管理/統制できていない」の回答割合が約3割に達する。中堅Mクラスや中堅HクラスではIT管理/運用の予算/人材も比較的豊富であるが、その一方で社員数や部門数も多い。
そのため、個々の社員による管理/統制されていないIT利用(いわゆる「シャドーIT」)を把握、制限することが難しくなる。この点についてはファイルサーバ型サービスだけでは対応が難しく、セキュリティツールや運用管理/資産管理ツールなども含めた総合的な対策が必要となる。ソリューションを提案する販社/SIerの力量が求められる状況といえる。
ストレージ基盤型サービスではオンプレミス環境のバックアップや補完も有効
一方、ファイルサーバ型に比べ、まだ利用するユーザー企業が多くないストレージ基盤型のサービスについて、今後の活用方針(複数回答可)を尋ねた結果が下のグラフとなる。
(ノークリサーチ提供)
年商5億円未満の小規模企業クラスと年商5~50億円の中小企業クラスでは「今後も利用する予定はない」「現時点では判断できない」の合計割合が8~9割に達している。したがって、今後「ストレージ基盤型サービス」の活用が見込めるのは主に年商50~300億円の中堅企業クラスということになる。
中堅企業クラスにおいては「社内に設置された業務システムデータを格納する目的で利用する」の回答割合が2~3割で最も高く、「IaaS/ホスティングを利用した業務システムとの組み合わせで利用する」ならびに「社内に設置されたファイルサーバを補完する目的で利用する」が共に1~2割の回答割合となっている。
したがって「ストレージ基盤型サービス」の訴求においては、IaaS/ホスティング形態の業務システム用途だけに限定せず、オンプレミス環境のバックアップや補完(容量超過データやアクセス頻度の低いデータのクラウドへの移動など)といったニーズも並行して訴求していくことが有効と考えられる。