ベトナムでビジネスをする

ベトナムとタイの方向性の違い - (page 3)

古川浩規(インフォクラスター)

2015-08-05 07:00

ベトナムでは何が求められているのか

 もう少し、ベトナム側の事情について触れてみましょう。東京でのベトナム情報通信大臣との懇談会には、ベトナムを代表するICT大企業の社長も出席し、各社のアピールとともにベトナム国内での代表的な開発事例の紹介がありました。ただ、ここで触れられたことは、「日本の事業ノウハウがほしい」「日本の技術がほしい」「日本からの投資を呼び込みたい」「(そのために)Samsungも入居している一大工業団地を引き続き整備している」という話が主になっていました。

 国家戦略として何があるがために日本からの投資を呼び込みたいのか、また、国としてのICT産業の振興ビジョンは何かについては、残念ながら不明確なままであったように感じました。さらに、日本側が発表を行った社会システムとしてのICTや、標準化の動向や政府間協議といった国際動向を踏まえた日本の今後の動きに対しては、特に言及がないままでした。

 ベトナム側の発言を総合すると、「ICT産業についてはベトナム産業の牽引役となってもらいたい」という考えに終始するものと思われます。これは、「オフショア開発をさらに呼び込みたい」「電子機器の組み立てとその輸出を図りたい」ことを意味するのではないかと個人的には推測しています。

 その意味では、日本側でも資本を投下してベトナム経済を動かす役割を果たすことも不可能ではないと思われますが、今後のベトナムでの産業振興に関するより実効性のある国家ビジョンなどが提示されなければ、「カネと技術とノウハウを持っていかれるだけで、日本企業にとってメリットがない」「コストメリットを考えるだけであれば、これからはミャンマーが良い」と日本側にとらえられる恐れもあります。この点は、ぜひベトナム政府の指導力に期待をしたいところです。


日本からは西銘総務副大臣、ベトナムからはSon情報通信大臣が参加し大臣級会合となった懇談会。日越両国間ではすでに「情報通信分野における包括的な協力関係の推進に係る覚書」が交わされて、また、2国間投資協定もあるものの、ベトナム側でもより実行力のある分野別政策の策定が望まれる

 ベトナムにも有望な企業や高等教育機関があり、日越の協力は非常に意義があるということはすでに何度も取り上げています。しかし、本年よりASEAN経済共同体(AEC)が動き始めるため、場合によっては日本から直接ベトナムに投資する必要もなくなるかもしれません。

 そのため、より緊密になり始めている日越関係をさらに進めつつ、ベトナムに日本からの継続的な協力を呼び込むためには、進出済み日系企業の目線からの意見提案とともに、ベトナムにおける国家レベルの協力支援パッケージ策定と、法制度・ヒト・モノ・カネのさらなる充実が必要となる時期に来ているのかもしれません。

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古川 浩規
インフォクラスター
内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、日系企業のベトナム進出に際して情報システム構築や情報セキュリティ教育等を行っている。資格等:国立大学法人 電気通信大学 非常勤講師、日本セキュリティ・マネジメント学会 正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事

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