営業支援システム(SFA)は、概要だけ聞くと夢のシステムのように思えることがある。導入するだけで、3カ月先には大幅な売り上げアップが実現するような気になる。しかし、現実はそうはならない。ほとんどの企業は、さまざまな工夫をし、長い忍耐の末にようやく業務の中に組み込み、成果を上げている。
これまでほとんど営業の管理などをしてこなかった小規模の組織なら、営業支援システム導入効果はすぐに出るかもしれない。しかし、一定の規模を持ち、市場でのシェアも確立している企業が、SFAを使ってさらに成果を上げるには、まず活用を定着させるところから地道に積み重ねていくしかない。
SFA利用における負の側面とは
SFAのジャンルに入るソリューションはさまざまあるが、共通しているのは、当の営業担当者にとって情報入力が負担になるということだ。顧客と名刺交換したら入力。プレゼンテーションの機会があればまた入力、顧客と話している中で、新たな問い合わせがあればさらに入力、中には日報で書くような顧客に対する所感の文章を入力するケースもある。
単純にスタイラスペンで、ポチポチと用意された項目を押すだけでも、項目数が多ければ相当な負担になる。1社分の入力に5分かかるとすると、1日4社、5社訪問する場合は、作業時間だけで30分は必要になる。
1社訪問するたびにこまめに入力することはおそらく多くの場合できないはずだから、1日の業務を終えてからということになる。あれこれと思い出しながら入力し、訂正などもすることになると、所用時間はさらに増えていく。
月曜日から金曜日まで、業務があるときは毎日この入力作業が必要ということになると、数カ月でほころびが出始める。真面目な人でも、未入力案件が少しずつ増えていき、「そもそもこんなものを入力して何の役に立つのだ?」という声が大きくなり、やがてシステムは開店休業状態になる。
このようにSFAは、POSレジシステムから情報を自動的に集積して分析するのとは違い、現場の動きを把握するために情報入力を人に任せる性質がある。営業担当者の理解を促し、入力することでメリットがあることを実感してもらわないとなかなか定着しない。
入力を毎日続けるためのモチベーションが保てない
国内最大のケーブルテレビ会社、ジュピターテレコム(J:COM)は、札幌から福岡まで全国5大都市圏で約494万世帯にケーブルテレビ、インターネット接続、電話などのサービスを提供する。
同社は、2008年にSFAを導入し、営業担当者にPDAを持たせて情報を入力させ、顧客の最新状況や営業活動の進ちょくを管理し、トップ営業のセールス手法などの共有化を目指した。しかし、導入後しばらくして入力状況が追い付かなくなり、システムの活用が進まなくなった。
営業推進部 エリア推進グループ長の髙田康二氏
営業推進部 エリア推進グループ長の髙田康二氏は「当時、わたしも入力する側だったのですが、とにかく大変だった。それに、入力した情報が直接営業担当者の活動に役立つものとは感じられなかった」と振り返る。
入力した情報が役に立たない、というのは次のような理由だ。
J:COMの営業担当者は、担当エリアを指示され、1カ月単位で別のエリアへと移っていく。つまり、情報入力していても、その顧客の情報を活用する時間は極端に短いのである。
顧客は戸建て住宅に住む人やマンションに住む人、法人客などさまざまだ。これらの顧客がいまどんなサービスを望んでいるか、インターネット、電話、ケーブルテレビなどのサービスをどのような会社から受けているかなどの情報は確かに重要だが、15以上の項目を1日に訪問する4件から5件について毎日入力していくのは確かに負担であり、モチベーションを保つのが難しい。