日本はこのままだとインターネットがもたらしつつある新たな産業革命から取り残されてしまう……。こう訴えるインターネット業界のご意見番の見解に筆者も共感を覚えたので、ぜひ取り上げておきたい。
産業や社会の仕組みを変える技術革新とは
インターネット業界のご意見番というのは、インターネットイニシアティブ(IIJ)の鈴木幸一会長兼最高経営責任者(CEO)のことである。1992年にIIJを創業し、日本にインターネットを持ち込んだ立て役者の一人として知られる同氏が語る深い洞察に基づいた見解は、いつも示唆に富んでいる。
今回、鈴木氏の話を聞くことができたのは、IIJが7月28日に都内ホテルで開いた記者懇親会でのスピーチだ。同氏はまず、インターネットを取り巻く状況についてこう語った。
「インターネットが広く普及し、その発展形であるクラウドコンピューティングの利用が広がってきた中で、IoT(Internet of Things)によるビッグデータの活用などによって、これまで見えなかったことが見える時代、さらには、できなかったことができる時代になってきた。これはまさしくインターネットがもたらした技術革新だ。この技術革新は、今やあらゆる産業や社会の仕組みそのものを変えようとしている。この現象は、新たな産業革命ともいえる大きなインパクトをもたらすものになる」
スピーチする鈴木幸一氏
インターネットによる技術革新が、あらゆる産業や社会の仕組みそのものを変えようとしているとはどういうことか。鈴木氏はこう説明した。
「例えば、生産や流通、医療、行政などでは、まずはもっと無駄を省けるところがある。そうしたところを技術によって標準化して共通化し、産業や社会の新たな共通基盤として利用できるようにして、その上でもっと高度なレベルの産業や社会づくりを目指す。その新たな共通基盤こそが、新しい社会の仕組みのベースになる。それを技術で実現する。そしてグローバルにも広げていくのが望ましい」
求められる仕組みの変化への抜本的な意識改革
鈴木氏はさらに、ドイツが推進している「Industrie 4.0」にも言及した。
「Industrie 4.0はまさにそうした取り組みを実践しているものだ。しかもドイツはこれを産官学連携の一大プロジェクトとして取り組んでいる。例えば、IoTによるビッグデータ活用の分野で共通利用できる標準技術を生み出し、国内に適用するとともにグローバルにも広げていこうとしている。産業や社会の新たな仕組みづくりに向けては、こうしたダイナミックな取り組みも必要だろう」
そのうえで、鈴木氏は日本の現状についてこう警鐘を鳴らした。
「技術革新によってあらゆる産業や社会の仕組みが変わろうとしているのに、残念ながら日本ではその認識が非常に乏しい。ベンダー個々には新たな技術を適用したソリューションを投入し、政府もさまざまなアクションプランを打ち出しているが、国全体としての気運が盛り上がっていない。その根底には、仕組みの変化を受け入れたくないという風潮さえある。日本はこのままだとインターネットがもたらしつつある新たな産業革命から取り残されてしまう。まずは抜本的な意識改革が必要だろう」
本当は最後に活路を見出せるような話をしたかったが、今の日本の状況では打開策がなかなか見あたらない。警鐘を鳴らすだけになってしまったが……と同氏はスピーチを締めくくった。まずはこの強い危機感を共有するところから始めたい。