柳田 通信キャリアの方に聞いても、同じような意見でした。慈善事業をやっているわけではないので、採算性がちゃんと説明できない限り、回線を引くことはできないと。でもそれは裏を返せば、ニーズがあるということを明確に示せば、引ける可能性があるということです。そういったコミュニケーションがすごく欠けていて、今は1件ごとの対応になってしまっています。
このような民間ビジネスを国が関与するというのも正しくないので、できれば民間が通信キャリアにニーズを見せる方式を作ったりできれば面白いですよね。
データセンターは一度構築すると数年で撤退するようなビジネスではなく、数十年と続く息の長いビジネスです。決して通信キャリアにとって悪い話ではないと思うのですが、そこは互いに必要としている情報がマッチングしていない気がします。そこが変われば、状況は大きく変わっていくと感じています。
津田 もう1つ面白い話があります、一時期、メーカーが日本から海外へ工場を移していきました。それで困っている工業団地が多くあるのです。工業団地は一般的に、数百ヘクタールの土地があり、かなり空地があるわけです。その空地には、相当大きなデータセンターを10個以上建てられます。つまり、実はシーズとニーズが合うのかもしれないという仮説が成り立つのです。これから、そのあたりをきちんと把握していきたいと考えています。
一方で、地域の活性化という課題もあります。これはある知事から直接聞いたのですが、子供達に農業と工場労働だけではない、別のことをその地域で見せたいと言うんですね。それがないから、みんな東京に行ってしまう。例えば、クラウドの場合は外部から見ると先端技術の羨望される産業なんです。Steve JobsやZuckerbergの世界ですね。
そういう世界最先端のものが地域に集積するということは、その地域にとっても精神的な支えになります。この地域で新しい産業ができるとなれば、そこに就職したいという子供達が出てきます。ニーズとシーズの両方が存在するのです。しかもキャリアも、まとまってくれればやる。誰かが旗を振ってくれればいいと言っています。
首都圏へのデータセンターの集中化に問題があるということは皆さん共有しています。シーズがあって、土地があって団地がある。地方は来てほしい。そうすると、仮説としては何か障害がない限りは、場所を特定して旗さえ揚げれば何かが起こるような気がしないでもない。その段階にあるのではないかと思います。
ここで少し技術的な話にシフトしたいと思います。プライベートクラウド、ハウジング、ホスティングという言葉があります。わたしの友人エンジニアが東京のデータセンターを利用しているのですが、遠隔で制御しており、実際にはそこに行ったことがないそうです。行ったとしても、サーバの目の前まで入れないと言うんです。ではサーバを直接触るときはどうするのか聞いたら、データセンター側に所属する担当者に頼むそうです。
ソフトウェアをインストールするときなどは、遠隔からネットワーク経由で操作するといいます。サーバを入れ替える時や、ハードウェアの故障の際は、データセンターの担当者がやるというサービスが提供されているのです。それを聞いたときに思ったのは、近くのデータセンターを利用するという時代が、すでに部分的には終わろうとしているのではないかということです。
その証拠に、1997年前後に私がASPの話をしたときに、「勘定系などの大事なシステムは絶対にASPにはならない」と周囲から猛反対を受けました。しかし現在、およそ100ある地方銀行のうち70行が、基幹系システムをデータセンターに移しています。しかも駆けつけられないような、結構遠いところにです。どうも最近は、企業のトップが言うデータセンターの条件に対して、実際の現場の人の動きは変化しているように感じています。そこはいかがでしょうか?
柳田 私もデータセンター事業者に、ユーザーからの駆けつけるニーズが今でもあるのかと聞いたことがあります。すると、契約前には希望するケースもあるらしいとのことでした。ただし、実際にはデータセンターは何重ものセキュリティがかかっていて、例えば実際にサーバを預けている事業者だからといって、駆けつけたらすぐに自分のサーバにたどり着けるかというと、そもそもたどり着けないそうです。事前にそれなりの手続きしなければなりません。そこでもう、論理破綻してしまっているというのがまず1つの状況としてあります。
あとは津田さんが指摘の通り、これは自前で持っているサーバの話ですが、ほぼ100%の作業を遠隔で行っています。これは多分、誤解がずっと蔓延してしまっているので、必ずしもサーバが駆けつけられる距離にある必要はないということを、実際にシステム運用している側の人に語ってもらえば、価値観はガラッと変わると思います。
日本では、残念ながら、経営者の方々がITのプロではないというケースが多いので、国としては経営層にいる、ジャッジをする方々に対して、心理的な障壁を減らす活動をすべきだと思います。