想像しなければ実現もしない
デジタルバリューシフトについての論理的な話は前回までのバックナンバーを参照いただくとして、最終回となる本稿では敢えて感性に訴えることを試みた。5年後にスマートフォンが存在するかも分からないし、モバイルPCが現役の生産ツールであるかも分からない。さらに最後は筆者自身の職も5年後に存在するか分からないというオチである。
デジタルバリューシフトを促すためには、全てがつながった世界を具体的に想像することから始まる。本稿の物語は、既に実用化されているものからコンセプトレベルのもの、筆者の完全なる予想が入り交じっているが、細かい点はさておき、「こうありたい」「こうなりたい」という想像がなければ、絶対に実現しない。
デジタルバリューシフトされた社会を構成するのは企業であり、企業を構成するのは人である。つまり、身の回りのことをデジタルで繋ぐとどうなるかを常に問い続け、それを結集させていくことでデジタルバリューシフトは起きるのである(図1)。新しいデジタルテクノロジにはセキュリティなどのリスクもつきまとうが、恐れてはならない。
IoT/IoEの時代を迎え、デジタルテクノロジはより多くの価値創造を促すと筆者は確信している。職場にPCが登場して業務が激変したのと同規模のインパクトが、これより5年以内に確実に起こる。しかし、全てが良い変化であるとは限らない。悪意のあるハッキングが都市を破壊したり、テロリストに悪用されたりする脅威は看過できないし、物語の後半のように人々の職が失われていくこともあるだろう。
現代においてもインターネットのDNSに対する攻撃は社会に甚大な被害をもたらすし、古くは電話の「交換手」という仕事があったがデジタル交換機の登場により不要になってしまった。
だが、このような負のインパクトにばかりに囚われてしまうのは実にもったいない。どんな変革にも痛みは付きものである。結局のところ、デジタルバリューシフトの本当の主人公は人間自身であり、デジタルテクノロジそのものが価値や脅威を創造するわけではないのだ。
発想や感性、感情など人間が高度に備えている機能はたくさんあり(図2)、未だ機械の及ばない領域である。人間が持つ機能と、デジタルテクノロジが持つ機能を組み合わせて価値を創造していくのだ。つまり、デジタルバリューシフトの本質は、「我々自身の価値を改めて見直すこと」と言えるのかもしれない。
1年間に渡る連載「デジタルバリューシフト」は本稿をもって締めくくりとしたい。ワークスタイル変革、先進企業との対談、そしてIoT/IoEによる価値創造について触れてきたが、全てを通じて言えることは本連載のテーマである「デジタルテクノロジは企業の価値そのものを変える」ということである。本連載を通じて筆者が主張してきたことが、読者の皆さんの意識に変革の種を植え付けたことを願うばかりである。
- 林 大介
- シスコシステムズ合同会社 シスココンサルティングサービス マネージャー 電機メーカのエンジニア、通信システムインテグレーターのセールスを経てコンサルティングの道へ。ネットワーク、モバイルを中心とし た戦略立案、新規事業開拓、テクニカルアドバイザリーを中心としたプロジェクトを多数実施。昨今はクラウド、M2M、IoT/IoE などの技術トレンドを背景にしたデジタル戦略策定、IoT/IoE新規事業創造、ワークスタイル変革に注力し、各種戦略策定、変革実行支援などを手がける。