内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」

経営に科学を組み込みイノベーションを--IT部門が乗り越えるべき壁 - (page 2)

内山悟志 (ITRエグゼクティブ・アナリスト)

2015-08-19 07:00

価値提供能力の壁

 IT部門が提供する価値を情報システムの開発、運用・ユーザー支援といった基本的かつ必然的なものから、より付加価値の高いものへとレベルアップさせる(図のI)ためには、ビジネス環境の変化に柔軟に対応しつつ、情報システムがビジネスの足かせとならないような構造を保つように、長期的かつ全体最適の視点で企業のITアーキテクチャを構想する能力を持たなければなりません。

 また、従業員一人ひとりが自律的に意思決定や知識創造を行ったり、組織として仮説検証を行ったりするための情報基盤を提供することが求められます。そのためには単にテータベースやグループウェアを整備することにとどまらず、企業風土の変革と経営者や従業員の意識改革を含めて、経営に“科学”を組み込む働きかけが不可欠となります。

 さらに、革新的価値を提供できるステージに進む(図のII)ためには、市場調査や技術検証といった研究開発(R&D)機能をIT部門に取り込む必要があります。ユーザー部門は、それぞれのビジネス分野の経験や知識を豊富にもっていますが、最新のIT技術に関する知識やその潜在力を評価する能力は必ずしももっていません。

 IT部門が、企業内唯一のIT専門家集団として、技術シーズを発掘し、ユーザー部門に提案することでビジネスイノベーションを巻き起こしていくことが期待されます。

ユーザー部門とのかかわりの壁

 次にユーザー部門とのかかわりにおいて越えなければならない壁を考えてみましょう。既存業務の維持を支援する立場から、改善を支援する立場にレベルアップする(図のA)ためには、ユーザー部門の業務上の課題を的確に抽出するための業務知識が必要となります。

 ただし、この時点では、現行の業務と、ユーザー部門があるべき姿と考える業務の違いを正しく理解できる程度の知識をもてばよいでしょう。

 しかし、次のステージである業務の変革と高度化のパートナーとしての地位を確立する(図のB)ためには、ユーザー部門と異なる視点で、あるべき姿を描くレベルの考察が必要となります。

 このレベルになると場合によっては、ユーザー部門の考えるあるべき姿を否定して、ITを高度活用した場合の代替案を提案することも重要な任務となります。そのためには、自社の強み・弱み、コンピタンス、差別化要因を正しく理解している必要があります。

 さらにITを活用した新規事業、新規サービス、新規ビジネスモデルなどを提案するなどして、新たな顧客価値をユーザー部門とともに創造するパートナーに位置づけられる(図のC)ためには、自社のビジネスだけでなく、属する業界全体、競合他社、異業種あるいは海外におけるベストプラクティスや先進事例を数多く学ぶことが求められます。

 その上で、ITのもつ潜在力と自社のコンピタンスを結びつけてビジネスイノベーションを巻き起こしていく存在となることが望まれます。

 現時点において、最初の壁(図のIおよびA)のどちらも乗り越えていない初期状態のIT部門も数多く存在しています。まずは、自社のIT部門が、今どのステージにあるのかを自己評価し、進化の方向性を見極めた上で、ステージアップしていくための組織能力を獲得するために、意識改革や人材育成を図っていくことが推奨されます。

内山 悟志
アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。

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