マーケティングの世界では、チャネルとは元々メディアの種類を指す言葉だった。この世界では、もともとダイレクトメールと紙の出版物への広告が主なチャネルであり、ウェブ、ソーシャルメディア、モバイルなどの新しいテクノロジは、もともとマーケティングの手段としては補助的なチャネルと位置づけられていた。
しかし最近では、オムニチャネルマーケティングの考え方が広がっており、その概念は、社内のITアプリケーションから求人ポータル、モバイルアプリケーションまで、あらゆるものに適用されている。この記事では、このバズワードについて詳しく見ていくことにする。
文脈とユーザー中心のデザイン
歴史的に、プロジェクトの設計の段階では、機能を中心に考えることが多かった。これはITの分野では特に顕著で、まず要件を詳しく調べることが一般的になっている。この調査では大抵の場合、必要な機能の長いリストができ上がるが、その一部は結局実装されず、プロジェクトが開始されてから、複雑すぎるかリスクが高すぎると見なされるものも多い。
特定の文脈に即した体験を実現することを目指すオムニチャネルの考え方では、まったく異なるアプローチを取る。ここでは、工場で働いている品質検査作業員という文脈を例に考えよう。この場合、文脈に即した体験とは、品質検査を行うことだ。オムニチャネルの考え方では、この役割を支えるのに必要な機能を並べ立てるのではなく、ユーザーが達成しようとしているタスクと、そのタスクを実行するために、ユーザーがどのようにツールや環境を利用するかについて検討する。このユーザーはモバイルデバイスと、流れの速い組み立てラインから注意が逸れないよう合理化されたユーザー体験の恩恵を受ける。従って、その体験を可能にする仕組みを定義する必要がある。
チャネルの特長を活用する
オムニチャネルについてのよくある誤解は、特定のコンテンツやサービスがあらゆるデバイスで何らかの形で利用できなくてはならないというものだ。オムニチャネルの考え方では、デスクトップ向けのアプリケーションを、レスポンシブデザインを用いて小さなモバイルデバイスの画面に押し込もうとするのではなく、チャネルに応じて異なる体験を提供する。
品質検査作業員の例で言えば、組み立てラインで検査を行う際に問題が見つかった場合、その場ではモバイルデバイスのカメラで撮影しておき、後からそれらの写真にデスクトップPCで詳細なメモを付けて技術部門のスタッフに送るようにすれば効率的だろう。どちらの作業も、1つのタスクの一部だが、同じデバイスですべての作業のための機能を提供することはしない。むしろ、各デバイスでそのデバイスにもっとも適した作業を行うようにする。