SAPが企業システムの次世代プラットフォームとして注力する「SAP HANA」は果たして「オープンスタンダード」になり得るか。SAPジャパンが先頃開いた記者会見から考察してみたい。
「イノベーションプラットフォーム」へと進化
「HANAはドラえもんのようなプラットフォームだ。この上でこれまでできなかったことが実現できる。もはや技術的な制約はなく、これからはHANAを生かす発想力が問われる」
記者会見に臨むSAPジャパンの福田譲 代表取締役社長
SAPジャパンの福田譲社長は、同社が先頃開いた事業戦略説明会でこう強調した。会見は福田氏が同社の社長に就任して1年が経過した節目として開かれた。会見全体の内容については関連記事を参照いただくとして、ここでは同氏が重点事業の1つとして説明に力を入れていたHANAに注目したい。
HANAは独SAPが2010年にインメモリ型のデータベースとして世に送り出し、今では企業システムにおけるOLTP(オンライントランザクション処理)などの基幹系と、OLAP(オンライン分析処理)などの情報系の業務アプリケーションを単一基盤でリアルタイムに実行できる次世代の「プラットフォーム」と位置付けられている。
福田氏はさらに、「最近では、未来を予測でき、IoT(Internet of Things)への対応にも非常に効果的な“イノベーションプラットフォーム”へと進化しつつある」とも説明した。
同氏によると、HANAの導入実績はグローバルで現在およそ7200社。注目されるのは過去1年間で倍増したことだ。日本での導入実績はこのうち、およそ200社。「日本ではこれから加速するところ」だという。
HANAがオープンスタンダードになり得る決め手とは
SAPにとっては、HANAがプラットフォームとして広く使われるようになるかどうかが、まさに同社の存亡をかけたチャレンジとなる。そこでキーポイントとなるのが、プラットフォームとして「オープン」なものかどうかだ。同社は当初から「HANAはオープンプラットフォーム」と強調しているが、見方によってはSAP独自のプラットフォームによって、新たなメインフレームの世界をつくろうとしているようにも映る。
そんな素朴な疑問を会見の質疑応答で福田氏に投げかけてみたところ、次のような答えが返ってきた。
「HANAはすでに複数のベンダーのハードウェア上で稼働しており、ソフトウェアもオープンで標準的な技術を活用できる。オープンソースではなくSAPが開発した独自のものではあるが、お客様サイドから見れば、マルチベンダーで利用でき、特別な技術による制約などない。HANAを適用したパートナーエコシステムも広がっており、むしろそうしたオープンなプラットフォームであるべきだというのが、SAPの基本的な考え方だ」
要は、ユーザーサイドから見てオープンなプラットフォームであるかどうかが重要というのが福田氏の主張だ。となると、今後注目されるのは、HANAが単に1つのオープンプラットフォームにとどまるのか、それともプラットフォームとして「オープンスタンダード」といわれる大きな存在になり得るのかだ。
福田氏はHANAに関する別の質問に対して、「これまでHANAの技術的なブレイクスルーばかり強調してきたが、これからはHANAによってさまざまな経営課題をいかに解決できるかを分かりやすく説明していきたい」とも語った。それこそが、HANAをオープンスタンダードなプラットフォームに押し上げる決め手になるのではないか。SAPの今後のメッセージに注目したい。