Fintechの正体

Fintechの正体--金融業界の歴史からの考察 - (page 4)

瀧 俊雄

2015-09-01 09:00

Fintechにおけるベンチャーの重要性

 このような環境下においては、一般論として、ベンチャー企業が以下の理由から有利なポジションにあることが多い。

 1つは、既存プレーヤーに比べて極めて短いPDCAサイクルである。ベンチャー企業の初期的な経営課題は、自社の抱える一つ、もしくは少数のサービスが成長市場に適合しているか(いわゆるProduct market fit)の見極めと改善である。

 既存企業が複数の意思決定アジェンダを抱える中で、シンプルなKPIを掲げるベンチャーはこの点でスピードを上回ることが可能となる。その結果として、より顧客満足を担保することができる「正解」にたどり着く成功確率を高めることとなる。

 もう1点は事業に対するリスク許容度の高さや、既存事業との調整コストである。起業家の自己資金やベンチャーキャピタルというリスクテイク主体が中心的なステークホルダーとなっているベンチャー企業と、経営や多くの従業員の最重要リソースである企業の自己資本では、新たなサービスを開発するために許容できる失敗の量や度合いが異なる。

 また、既存企業が自社の得意な領域において新規サービスを起こす際には、既存事業とのモデル上の競合を起こすことも多い。これらの、意思決定にかかる調整やスピードにおいて、平均的にはベンチャー企業に分がある領域が発生しうる。

 もちろん、既存領域における専門性や制度インフラに関するナレッジなどに鑑みると、Fintech領域は他の産業に比べて参入障壁が平均的には高いものとなる。しかしながら、相対的な議論の中で、ベンチャーの強みが発揮されやすい環境が、ここ数年の中では成熟してきたといえる。

 マネーフォワードも、このような文脈の中で設立した会社である。次号では、当社の設立背景も含めながら、このトレンドについてより深く見ていくこととしたい。

瀧 俊雄
取締役 兼 Fintech研究所長
1981年東京都生まれ。 慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスの企画部門を経て、2012年よりマネーフォワードの設立に参画。自動家計簿サービスアプリ「マネーフォワード」と、会計や給与計算、請求書発行などのバックオフィス業務向けアプリ「MFクラウド」シリーズを展開している。

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