――マイクロサービスで、異なった場所にあるものをAPIでつなげる場合、責任の所在のような問題が出てきそうです。
紫関氏 はい。マイクロサービスの場合は、パブリッシュしているAPIやSLAがすべてです。これが契約なわけです。この契約を破らない範囲においては何をやってもいいわけです。しかし、それぞれのサービスが独立しているので、障害になることもあります。たとえば10個のマイクロサービスが連携してひとつのアプリケーションを作っているようなとき、どこかひとつに障害があると、障害が広がってしまう可能性だってあるわけです。
小さい障害がシステム全体のダウンを招いてしまうようなことが起こらないように、たとえばパターンであるとか、ソフトウェア向けのサーキットブレイカーみたいなものがあるわけですが、こういうものをどんどん考えていく必要があります。トランザクションをどこで切っていくかといったノウハウが、非常に重要になってくると思います。
NTTコミュニケーションズ クラウドエバンジェリスト 林雅之氏 事業計画、外資系企業や公共機関の営業、市場開 発などの業務を担当。政府のクラウドおよび情報通信政策関連案件の担当を経て、2011年6月よりクラウドサービスの開発企画、マーケティング、広報・宣伝に従事
林氏 私自身ハイブリッドクラウドは、閉塞的なものではないと思います。情シスが目指しているゴールではなく、オンプレミスとうまくインテグレーションできないため、どちらかというと暫定対応みたいな形になっていると思います。理想としては、最終的にどこかのクラウドに集約されていく。集約することを想定し、運用管理を簡易にする形を目指していけばいいんじゃないかなと思います。ですから、5年以内にハイブリッドクラウドはどこかに集約されて、ワンクラウドのような形で実現できればいいと思います。
佐藤氏 クラウド向けの有用であろうテクノロジは、いろいろ出てきていると思います。一方、ほとんどの顧客はとても古いものをそのまま使い続けていると思います。ソフトウェア的にも同様です。例えばソフトウェアベンダーからすると、新しいものにしてもらうだけで“クラウドレディ”になるようなインフラがあったりするのに、バージョンアップすらできない日本のカルチャーのようなものを感じます。
日本オラクル クラウド・テクノロジー事業統括 クラウド・テクノロジー製品戦略統括本部 Cloud/Big Data/DISプロダクトマーケティング部 部長 佐藤裕之氏クラウド、ビックデータなどのビジネス開発・マーケティングを担当し、新たなIT基盤を普及すべく日本市場の開拓に従事、以前はエンジ ニア部門長として顧客への導入技術支援に従事
概念的には、それぞれの新しい要素を組み合わせていけるのは素晴らしいと思うのですが、現場レベルでいうと「まずソフトウェアをバージョンアップしませんか」みたいなところから考えなきゃいけないのかなとも思います。
ハイブリッドクラウドを迎える組織体制と人材育成
各務氏 私がチャレンジだと思っているのは、組織体制と人材育成です。たぶん皆さん感じになっていると思いますが、クラウドで動くような組織になっているときに、ベンダーさんに丸投げしてしまう話があります。そこで大事になってくるのがアプリのアーキテクトとインフラのアーキテクトを顧客にそれぞれ置くか、育成させるか、外から雇うか、コンサルでも一時的にでも入れてくださいという話をどの顧客にも提案します。
たとえばある銀行で、あるアプリケーションを交換しなくてはならない。仕様はベンダーが持っていて、ハードウェアを交換するのに数億円かかります。そしてアプリケーションの金額が数百万円もする場合もある。アプリケーションのアーキテクトを得て、その人がしっかり管理できていれば、アプリケーションをライフサイクルで管理ができたはずです。
そういう問題が起きているので、アプリケーションのアーキテクトは採用してくださいとお願いしています。次にインフラのアーキテクトが育ちにくい環境になりつつあって、特に若手の方は、「あなたは●●●担当」と貼り付かされているケースが多くなっています。私が昔いた会社みたいに全般をやったことあるという人は少ないんですね。
しかし、クラウドをやるとすると、すべてできなくてはいけません。インフラのアーキテクチャがわかる人がいないと、出入りのSIerに握られてしまって、「これはクラウドでなく、うちのハードを買いなさい」みたいな話になってしまう。アプリケーションのアーキテクト、インフラのアーキテクトを顧客のところにを恒久的に確保していきましょうというのが最大の課題かなと私は感じています