巨勢氏 課題という意味では、クラウドは先ほど各務さんがおっしゃった通り、SLAベースで顧客と契約するものなので、今までのオンプレミスの環境に固定資産を導入するというような付き合い方とまったく違います。多くの企業では、そういったSLAをベースとした契約にまだ慣れていない気がしています。よくあるのは私たちとSLAをベースに――SLAといっても可用性であったりセキュリティだったりいろいろあると思いますが――そういう話をしていく中で、例えば機器の話やソフトウェアのバージョンの話になるなど、(あいまいな契約の)カルチャーから抜けきれない状況があると感じています。
ヴイエムウェア ハイブリッドクラウド本部本部長 巨勢泰宏氏 2008年入社し、同社エンジニアリング部門を統括後、2014年よりVMware vCloud Airの事業戦略の立案から市場展開までを牽引。仮想化の既存の顧客を中心に透過的なハイブリッドクラウドの導入の支援を推進する
こうしたことが私は問題になり得るのではないかと思っています。先ほどエンタープライズと新興企業の話をしましたが、今までエンタープライズの企業が担ってきた事業や領域において、今まで考えもしなかった会社がポンと来て、クラウドを使いこなして、その会社が一気にその業界における脅威になる状況もあると思います。
そういった企業のいくつかとお話しする機会がありましたが、あまりそういう「中身」の話は気にしない。要はSLAで議論して、それができるのなら顧客の側が必要なものを準備するといった、どちらかというとクラウドの上に積み重ねていくディスカッションをされているケースが多い印象です。
一方、昔からのオンプレミスに固定資産を入れていくことに重きを置いている企業においては、クラウドの中身についついはまってしまって、どうやって活用していくかの議論がなかなかしづらい形態なのかなと思います。ハイブリッドクラウドという点まで見ると、責任の所在の分解点をどのように設けるか。クラウドなので、いろいろなものが抽象化されている中で考えると、非常に難しい課題になると思っています。
――責任の分解点というのは、例えばどんなことですか。
巨勢氏 たとえば、オンプレミスとパブリッククラウドを連携させて、ひとつのアプリケーションを両方で使ってサービスを展開するときに、そのサービスが何らかの問題で動かなくなってしまった場合ですね。それがオンプレミスの問題なのか、パブリックの問題なのか。そして問題がパブリックにあった場合、それが製品やサービスの問題なのか、ネットワークの問題なのか。いろいろなものが抽象化されているので、トラブルシューティングが非常に難しい。それが各務さんの話につながるのかもしれませんが、そういった状況が打破できる人材の育成は、重要だと思います。
(第5回に続く)